なぜシニアUD?

 このページは、理事長 柳原美紗子が担当します。

2025.1.25
vol.26

 

 IT業界からみたメタバース・Web3の未来におけるユニバーサルデザイン

 

   近年、メタバースやWeb3が注目を集めています。これらの技術が日常に定着する未来において、ユニバーサルデザインはどのように実現されるのでしょうか。
 NPO法人ユニバーサルファッション協会では、このテーマを探るため、アクロスロード株式会社マーケティング本部部長であり、Vma plus株式会社執行役員CSOの山崎浩一氏を迎えたトークイベント、UFトーク4を、2024年12月20日、オンラインにて開催しました。

メタバース・Web3の進化と現状
 メタバースという概念は、1992年のSF小説『スノークラッシュ』に登場し、その後2003年に「Second Life」、2006年には「Roblox」がリリースされました。2010年代にはビットコインやNFTが誕生し、デジタル経済が本格的に拡大。しかし現在、メタバースはまだ黎明期(フェーズ1)にあり、期待されたほどの盛り上がりを見せていません。
 コロナ禍ではメタバースがブームになりましたが、多くはゲーム内での体験にとどまり、本格的なメタバースとは言えませんでした。現在、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)からMATANA(Microsoft、Amazon、Tesla、Alphabet(Googleの親会社)、NVIDIA、Apple)への覇権交代が進む中、メタバースは幻滅期とも言える状況です。しかし、2025年から2030年には普及期(フェーズ2)、2030年以降には定着期(フェーズ3)へと移行すると予測されています。

 メタバースの普及には、以下の8つの要素が重要とされています。
・VR/ARデバイスの性能・UX向上
・ハード・ソフトの標準化
・ヒットコンテンツの登場
・アバターを介したコミュニケーションの定着
・メタバース関連人材の育成
・デバイスの低価格化
・企業によるマネタイズ
・法整備

メタバース・Web3とユニバーサルデザイン
   メタバースは、現実と仮想空間の両方を包含する概念です。その中には、VR(仮想現実)、MR(複合現実)、AR(拡張現実)が含まれ、リアルとの融合が重要な課題となっています。

 メタバース・Web3は、ユニバーサルデザインの理念と密接に関係しています。デジタル空間では、アバターを通じて性別・国籍・障害の有無を超えたコミュニケーションが可能となり、新たな協力関係が生まれます。また、リアル社会では実現が難しいビジネスモデルも、メタバース空間では実現可能となり、ユニバーサルファッションの普及も期待されています。
 加えて、デジタル権利の保護やプライバシーの強化も求められており、こうした新たな課題も浮上。このため、現実とデジタルの両方が補完し合うことが重要になります。

メタバース・Web3の未来展望
 メタバース・Web3は単なる技術革新ではなく、社会全体のアクセシビリティ、包括性、多様性の実現を促進する基盤となります。物理的なバリアフリーだけでなく、意識や価値観のバリアフリーを推進する新たな選択肢となるでしょう。
 メタバースは、私たち一人ひとりの知見やアイデアによって進化していきます。現在の技術はまだ発展途上ですが、将来的には、現実では諦めざるを得なかったことも実現可能な世界が広がるかもしれせん。この新しいデジタル空間を共に創り上げ、誰もが楽しめる世界を実現していくことが求められています。

まとめ
 メタバースは、すべての人が自由に参加し、楽しめる場となることを目指しています。その実現に向けて、Web3は重要な役割を果たし、ユニバーサルデザインの理念と融合していくでしょう。ユニバーサルファッションもまた、その一翼を担い、新たな可能性を広げていきます。

 「メタバース・Web3 = ユニバーサルデザイン」という言葉が象徴するように、これからのメタバースの未来に大いに期待が寄せられます。

2025.1.25
vol.28

 

ヘラルボニー : フランスでの海外展開の理由と今後の展望


  知的障害のあるアーティストと契約を結び、その作品をインテリアやアパレルなど多岐にわたる形で展開するヘラルボニー(HERALBONY、岩手県盛岡市)。2024年5月には、世界1,545社が応募した「LVMHイノベーション・アワード2024」でファイナリスト6社に選出され、2024年7月にはフランス・パリに拠点を設立。その独自のビジネスモデルが世界的に注目を集めています。

 先日、同社の最高執行責任者(COO)である忍岡真理恵氏が、「海外展開を始める理由と今後の展望」をテーマに講演。「海外展開を決意した経緯」「フランスを選んだ理由」「今後の事業展開」について語られました。

下記にその興味深い内容をまとめてみましたのでご紹介します。

1. ヘラルボニーとは?
 ヘラルボニーは、知的障害のあるアーティストと契約し、彼らの作品をIP(知的財産)として活用する企業です。アート作品をインテリア、アパレル、キャンペーンデザインなどに応用し、主に法人向けビジネスを展開。個人向けには高級百貨店での販売を通じて、障害者アートの価値を広めています。

 創業の背景には、双子の創業者である松田文登氏と松田崇弥氏の長兄・翔太氏の存在があります。翔太氏が重度の知的障害を持つことから、障害者に対する社会の固定観念に疑問を抱き、「異彩作家」の価値を広めるために2018年に設立。社名「ヘラルボニー」は、翔太氏が自由帳に頻繁に書いていた謎の単語に由来しています。

 ヘラルボニーのビジネスモデルは「支援ではなくパートナーシップ」。アーティストにロイヤリティを支払うことで、持続可能な経済的支援を実現しています。日本の福祉制度では障害者の平均月収が約16,000円と低い現状がある中、過去3年間でアーティストへのロイヤリティ総額は約15倍に増加しました。

2. フランス進出の理由
 国内での成功を受け、ヘラルボニーは海外展開を検討。2023年には松田崇弥氏がパリを訪問し、アートギャラリーや障害者雇用のカフェを視察。フランスはアートの本場であり、多様性を尊重する文化が根付いていることから、最初の海外拠点として適していると判断しました。

 アメリカも候補の一つでしたが、企業や消費者の反応を比較した結果、フランスの方がヘラルボニーの理念に共鳴しやすいと感じたといいます。フランスの消費者は日常的にアートを購入し、障害者アートにも理解があることから、まずフランス市場に注力する方針を決定しました。

 2024年には「LVMHイノベーション・アワード」に応募し、世界1,545社の中からファイナリスト6社に選出。これがパリ進出を決定づける契機となりました。アワード受賞により、フランス最大のスタートアップ支援施設「ステーションF」に入居し、LVMH傘下の75ブランドとの商談機会を獲得しています。

3. フランスでの事業展開と今後の計画
 ヘラルボニーはフランス法人「HERALBONY EUROPE」を設立し、事業拡大を進めています。今後の重点戦略は以下の3つです。

① 現地アーティスト・福祉施設との連携
・ヨーロッパ全土のアート関連福祉施設と提携し、優れたアート作品の供給を確保。
・例:ドイツ・ハンブルクの「Freunde der Schlumper」などと関係構築中。

② 法人クライアントの獲得
・BtoB向けに企業との商談を強化。
・大規模カンファレンスへの参加やプレゼンを実施し、ビジネスチャンスを拡大。

③ ブランド事業の認知度向上
・ヨーロッパのデザインイベントやファッションウィークに出展し、ブランドの認知度を高める。
・2024年9月にはパリで初の展示会を開催し、多くの来場者を獲得。

 現在、パリの拠点は日本人スタッフ2名、現地業務委託5~6名の小規模チームで運営。海外展開はまだ始まったばかりで、今後2年間は投資フェーズと位置付け、継続的な成長を目指します。
結び
ヘラルボニーは、障害者アーティストの作品を「社会貢献」ではなく「ビジネス」として展開するユニークな企業です。フランスを海外進出の第一歩とし、現地のアーティストや企業と協力しながらブランドの価値を高めています。LVMHの支援を受けながら、今後2年間で事業基盤を確立し、持続可能な成長を実現していく方針です。

 ヘラルボニーの挑戦は、単なる海外進出にとどまりません。アートを通じて知的障害のあるアーティストの才能を世界に発信し、多様性を尊重する社会の実現を目指しています。今後もフランスを足がかりに、さらなるグローバル展開を進め、新たな価値を創造し続けるでしょう。その歩みが、障害のある人々の可能性を広げ、社会の意識を変えていくことを期待したいと思います。

2025.1.25
vol.27

 

アジア地域・高齢社会の未来―ファッション市場の視点から


 2024年11月27日から29日にかけて、東京ビッグサイトで開催された「アジア ファッション フェア(AFF)AUTUMN展」のセミナーに、株式会社高嶋デザイン研究所の代表取締役であり、神戸芸術工科大学名誉教授の見寺貞子氏が登壇しました。

テーマは「アジア地域・高齢社会の未来―ファッション市場の視点から読み解く」。見寺氏は、急速に進む高齢社会において「ユニバーサルファッション」の重要性を訴え、今後のファッション商品企画に役立つヒントを提供しました。

下記、講演の概要です。

1. 社会変化とファッションの関わり
 見寺氏は、ファッションデザインが社会現象や状況と密接に関連していると述べ、以下の6つのポイントを挙げました。
①持続可能な社会(SDGs)への対応
②少子高齢化社会への適応
③ダイバーシティ社会の推進
④マイノリティから学ぶ社会
⑤情報技術の進展がもたらす変化
⑥ライフスタイルの変化への対応

 特にSDGsの視点から、人間の尊厳や多様性の推進に焦点を当て、社会全体が共生できる仕組みを考えることが重要と指摘しました。

2. ダイバーシティの意義とファッションへの応用
 ダイバーシティ(多様性)について、以下の考え方を示しました。
・人権や文化的多様性の尊重:年齢、性別、国籍、障害の有無を問わず、すべての人が活躍できる社会を目指す。
・ジェンダーレスやサイズの多様性:ユニバーサルデザインを通じ、性別や年齢を問わず着られる衣服の必要性。

 ファッション業界は若者中心の価値観から脱却する必要があり、より多くの人々の多様なニーズに応える取り組みが求められると強調しました。

3. ユニバーサルファッションの重要性
 ユニバーサルファッションとは、年齢や国籍、障害の有無にかかわらず、多くの人が快適な衣生活を通じて心豊かな暮らしを送れることを目指すものです。見寺氏は、機能性だけでなく楽しさや心の豊かさを持てる服の追求する意義についても言及しています。

 また、ユニバーサルデザインの7つの原則をファッションに応用し、次の点を挙げました。
・公平性:誰もが着られ、購入可能である。
・自由度:サイズ調整が可能。
・単純性:簡単に着脱できる。
・分かりやすさ:視認性が高く、直感的に着られる。
・安全性:安心して着られる工夫。
・身体への負担軽減:体型に合い、着心地が良い。
・空間の確保:機能的な付属品や余裕のある設計。

 これらの原則に基づき、高齢者や障害者を含む多様な人々に向けた快適な衣服づくりの必要性を説明しました。

4. 高齢社会とファッション産業の課題
 日本では65歳以上の人口が増加し、2025年には約3,657万人と国民の約30%を占めると予測されています。この状況下で、高齢者向け衣服には以下の課題と解決策が求められます。
・体型や姿勢の違いに対応:既製服は健常者向けに作られており、高齢者や障害者に合うサイズや形状が少ない。
・機能性とファッション性の両立:例えば、車椅子利用者向けの深い股上のパンツや、肌が弱い人向けの縫い代外付けデザイン。
・着脱の容易さ:扱いやすいファスナーやボタン、マジックテープを用いた工夫。
・視認性と安全性:反射材を取り入れることで交通事故のリスクを軽減。

5. 課題研究
 見寺氏は長年の研究について次の事例を紹介しました。
? 片麻痺者向けの快適な衣服
 日本では身体障害者の約半分が肢体不自由者で、その多くが脳卒中による片麻痺者です。歩くと服がねじれる、肩が落ちるといった問題を解決するために、襟、シルエット、袖、地の目に着目し、16種類のサンプルを作成。その中で、以下の特徴が判明したといいます。
・ラウンドネックは首元にしっかり固定され、落ちにくい。
・Aラインシルエットは体に絡まず、動きやすい
・ラグラン袖は肩のずれを防止する
・前中心のデザインはバイヤスに比べ、ねじれにくい。

? 中国市場向けの体型研究
 日本人と中国人の体型の違いに対応したデザインの重要性を指摘。日本人はほっそりとした洋梨型の体型が多いのに対して、中国人は脚が長くがっしりとした体型が多数。民族の体型に合わせた衣服設計が必要であると示唆されました。

? がん患者への対応
 脱毛時に役立つヘアハットや帽子の重要性を強調。

6. 企業の実際の取り組み事例
 以下の事例が紹介されました。
・ワコール:乳がん患者向けの前開きブラジャー。
・テンボ:難病の子ども向け衣服を東京コレクションで発表。
・ユニクロ:多様な体型に対応する既製服の展開。
・反射材プロジェクト:視認性を高める衣服の開発。

7. ユニバーサルファッションの社会的役割
 見寺氏は、ファッションが単なる衣服ではなく、社会参加や心の豊かさを支える重要な役割を果たすと述べています。“おしゃれを楽しむことが高齢者の残存能力の活性化や生活の質(QOL)の向上につながる。”と語られたことが改めて胸に響きました。

 講演の最後には、神戸を“世界一ユニバーサルな街”にする取り組みや、アジアでのユニバーサルファッションの普及について言及。2024年には著書『シニアファッション―ユニバーサルファッション:おしゃれは高齢者・障がい者の心と身体のビタミン剤』の中国語版の出版が予定されています。

 この講演は、ファッションを通じた社会変革の可能性を示す内容となりました。

2025.1.25
vol.26

 

  ファッションのインクルーシブデザイン シンポジウム


 ファッションのインクルーシブデザインシンポジウム(ファッションのインクルーシブデザイン実行委員会“障がい等による機能低下、体型変化等に配慮した衣服の開発と普及のための基盤整備”研究班主催)が、昨年11月9日、カシオ科学振興財団研究協賛事業の一環として東京・日本橋で対面およびオンライン形式で開催されました。私はオンラインで参加し、対面と合わせて約100名が参加したとのことです。

 インクルーシブデザインとは、年齢、性別、障がいの有無、文化的背景に関わらず、あらゆる人が利用できるデザインを目指す手法です。ファッションにおけるインクルーシブデザインは、ユニバーサルファッションと共通点がありますが、ユニバーサルデザインが最大多数の人々が利用可能なデザインを目指すのに対し、インクルーシブデザインは特定のユーザーのニーズに焦点を当てています。

 今回のシンポジウムの趣旨は、障害などに配慮した“おしゃれ”な衣服が必要としている人々に十分行き渡っていない現状を打開することにあります。これに向けて多様な立場の参加者が集まり、「みんなで一緒に考える」をキャッチフレーズに掲げ、情報共有と課題解決を目指しました。以下、シンポジウムの内容をまとめます。

司会進行: 小野栄一氏(国立障害者リハビリテーションセンター/研究所顧問)

開会の言葉: 平林由果氏(金城学院大学教授、公益財団法人カシオ科学振興財団研究代表者)
 平林氏は、金城学院大学ファッション工房が昨年9月に実施した「ファッション・フォー・オール」の動画を通じ、高齢者や障がい者がおしゃれを楽しむ取り組みを紹介しました。

第1部: ファッションを通じたインクルーシブ社会の実現のために 新しい価値創出の可能性を探る

<当事者や家族の立場から>

☆山岸加奈子氏(トロンボーンソリスト 日本ケアメイク協会理事長)
課題と工夫: 視覚障がい者として、服選びには画像説明アプリを活用。さらに、視覚障がい者が自力で化粧できる「ブラインドメイク」の普及活動を実施。

改善の希望: 視覚障がい者向けの洋服管理アプリの開発を提案。

目指す未来: ファッションをより楽しめる社会の実現。

☆ 富田公美氏(小児病棟での経験から発言)
 長男が生まれつきオリエール病(多発性内軟骨腫症)を持っている。

課題:
  1. 特殊な体形に合う衣服の不足。
  2. 痛み緩和など身体的特徴に合った機能性衣服の必要性。
  3. 家族間や病院での衣服情報共有の場が不足。

提案: 病院内に衣服相談窓口を設置し、デザインと機能性を両立する情報共有を促進すること。

<企業の立場から>

☆ 中澤幸子氏(株式会社SACHI代表取締役)

取り組み: “アトリエ・クチュリエール”を立ち上げ、オーダーメイドやリメイクを提供。

実例:
  1. 着脱しやすい車椅子用の服。
  2. 全開ファスナー仕様のTシャツ。
  3. ウエスト加工を施したジーンズ。
  4. 水泳選手向け防寒スウェットパンツ。

効果: 小さな工夫が当事者の前向きな変化を促す可能性を指摘。

<研究者の立場から>

☆ 雙田珠己氏(元熊本大学教授)

研究の背景と内容:
 ・目的: おしゃれと機能性を両立する衣服改良の効果を数値的に検証。
 ・進め方: 医療・リハビリ専門家と連携し、身体状態に合わせた改良を提案。
 ・検証方法: 心拍数や動作解析を活用。
 ・共同研究: 車椅子用レインコートや食事用エプロンの開発。

今後の課題と提案:
 ・課題: サイズ不一致、着脱困難、情報不足といった衣服の不便さ。
 ・提案: 病院や市役所に相談窓口を設置し、利用者と縫製技術者をつなぐ仕組みを構築。最終的には社会事業としての継続モデルを目指す。

第2部「誰でもおしゃれを(取組の例)」

 ファッションのインクルーシブ デザイン シンポジウムの第1部では、ファッションを通じてインクルーシブ社会の実現に向けた一歩が示されました。障害や高齢にかかわらず、すべての人々がおしゃれを楽しめる未来の実現には、さらなる情報共有と多様な主体の連携が必要です。
 第2部は「誰でもおしゃれを(取組の例)」です。ここでは、具体的な製品やプロジェクトの紹介が続きました。

<公益法人・大学の取組み>

☆星川安之氏(公益財団法人共用品推進機構/専務理事)

活動概要: 障がいの有無に関わらず、誰もが使いやすい「共用品」や「共用サービス」の普及を推進する活動を展開。玩具メーカー勤務時代、障がい者も使える商品開発に着目し、「共用品」の概念に到達。その後、共用品の統一規格の普及活動を開始し、任意団体から公益財団法人としての形に発展。

具体例: 子ども用の水泳帽で動物デザインを採用するなど。

☆大野淑子氏(山野美容芸術短期大学/客員教授)

活動概要: 山野美容芸術短期大学において、高齢者や障がい者のQOL向上を目的とした「美容福祉」および「美齢学R」の推進を主導。ジェロントロジー(老年学)を美容分野に応用し、研究や実践を重ねている。

具体例:
 ・訪問理美容: サービスが受けづらい高齢者や障がい者の元に出向き、理美容サービスを提供。
 ・化粧療法: メイクアップを通じた心身の健康増進。
 ・アピアランスケア: がん患者の外見的変化による苦痛を軽減するケア。
 ・ユニバーサルファッション: 誰でも着やすく使いやすい服飾の提案。
 ・車椅子の着付け: ユニバーサルきもの着付師の資格認定を実施。

装いの効果: 装いによる気分や自信の向上が、人々の行動を積極的に変化させ、その人らしい生活を支える。

<人材育成の取組み>

☆鈴木綾氏(NPO法人エスプリローブ/代表理事)

活動概要: 身体障がい者に適応した服のデザイン・製造・販売を行うアトリエを母体に活動を展開。ソーイング教室やパターン教室、デザイナー育成講座を開講し、さらに活動の幅を広げるためNPO法人を設立。

具体例: 2011年の開業からの経験をもとに、2021年には日本財団助成事業として「アダプティブファッションデザインスクール」を設立。病気や障がいを持つ方々の身体と心に向き合い、衣服デザインを学ぶ講座を実施。参加者はアパレル業界の関係者や服飾学生などで、服飾の基礎知識を活かし、障がい者のニーズを理解しながら解決策を共に考える機会を提供。

目標: 障がいがあっても学び続けられる環境の整備と、働く場の創出。

<企業の取組み>

☆ 前田哲平氏(株式会社コワードローブ/代表取締役)

活動概要: 服の新しいお直しサービス「キヤスク」を展開。障がいや病気を持つ人々が「着たい服」を自由に選べる社会を目指し、課題解決に取り組む。

サービスの特徴:
 1. お直しメニュー: 一般的なお直しサービスでは簡単に受けてもらえない身体の自由な人のニーズへの対応に特化したメニュー構成。例えばTシャツの前開き加工 (1,980円)、パンツの両足横開き加工 (3,960円)など。
 2. サービスフロー: 依頼から受け取りまで、自宅ですべてを完結できるサービス。
 3. キャスト(お直しスタッフ): 技術と心の両面で優しく寄り添えるスタッフ=キャストが接客からお直しまでを在宅のままフルリモートで提供するサービス。
   4. パーソナルな服の製作: 「世界に一着だけの服」を製作し、その実例を公開。

今後のビジョン: 「誰一人取り残さない」アパレル業界を創造し、すべての人に等しく選択肢を提供する社会を目指す。

☆ 田中美咲氏(社会活動家・ソーシャルデザイナー)

活動概要: インクルーシブファッション企業「SOLIT!」を設立し、日本発のグローバルブランドとして活動。日本・中国・イギリスを中心に展開し、2022年には「iF DESIGN AWARD」の最優秀賞を受賞。現在、国内外の大学や企業にその手法を提供し、実践者の育成に注力。

評価ポイント:
  1. 個別最適性:  部位ごとに1600通り以上のカスタマイズが可能なデザインで、多様なニーズに対応。
  2. 社会システムへのアプローチ:  多様な当事者が意思決定プロセスに対等に参加する仕組みを構築。

課題解決への挑戦: 美の固定観念や多様性の不足に取り組み、「感動ポルノ化」を克服する。感動ポルノ化とは、障がい者を過度に美化したり「かわいそうだから助けてあげるべき」といった視点で描くことで、彼らの自然な生活を歪める構造を指す。「SOLIT!」では、このような表面的な扱いを排し、多様な人々が対等に尊重される社会づくりを目指している。

☆ 加藤路瑛氏(感覚過敏研究所/所長)

活動概要: 感覚過敏とは視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの諸感覚が敏感になっており、日常生活に困難さを抱えている状態。自身の感覚過敏の経験から、アパレルブランド「KANKAKU FACTORY」を立ち上げ、感覚過敏に配慮した服を開発。12歳で起業し、タグなしや縫い目外側などのコンセプトで製品を設計。

具体例:
  1. カームダウンパーカー:  感覚過敏でも快適に過ごせるデザイン。
  2. やさしいワイシャツ:  2024年キッズデザイン賞を受賞。

目標: 感覚過敏を理由に「今」を諦める必要のない社会の実現。五感に優しい空間づくりを通じて、外の世界も楽しめる環境を提供。

総括
   各団体や企業の取組みは、障がい者、高齢者、感覚過敏の方々が「おしゃれ」を楽しみ、自分らしく生活できる社会を目指すものです。それぞれが、誰もが平等に選択肢を持ち、多様性を受け入れる社会づくりに貢献しています。このような活動が広がることで、より包摂的で住みやすい社会が実現していくことが期待されます。

2024.11.18
vol.25

 

 ファッションを気持ちよく楽しむために~障害者差別解消法を考える~

 

  「ユニバーサルファッション協会では、10月19日、東京・港区立産業振興センター会議室とオンラインZOOMにて、介護福祉士で介護インストラクターでもある玉田拡之氏を講師に迎え、UFトークイベントvol.3「ファッションを気持ちよく楽しむために~障害者差別解消法を考える~」と題した講演会を開催しました。

 玉田氏はアパレル業界から介護業界へ転身し、百貨店やホテルなどで障害者や高齢者対応の研修を行ってきた経験豊富な専門家です。講演では、現場での具体的な課題を取り上げながら、製造や販売の場での実践的な対応方法について提案がなされました。

「障害」とは何か――日常のエピソードから考える
 講演の冒頭、玉田氏は自身が体験したエピソードを紹介しました。スキー合宿中、車椅子のチェアスキーヤーが宿泊施設でスタッフから「怪我をされたのですか?」と尋ねられた際、彼が「何でもない、大丈夫です」と答えると、「お気の毒様です」と返されたという出来事です。彼が日常生活を普通に暮らしていることを知っている玉田氏は、この言葉に違和感を覚え、「障害者は本当に『気の毒な存在』なのか」という根本的な疑問を投げかけました。

障害者への理解と社会の変遷
 まず、「障害者」とは長期にわたり日常生活に制限を受ける人を指すと定義したうえで、障害を理解する基本的な考え方を説明しました。国連が1981年を「国際障害者年」と宣言して以来、世界各国で障害者福祉が進展。我が国でも、1993年に制定された「心身障害者対策基本法」を経て、2016年には「障害者差別解消法」が施行されました。そして2024年4月の改正では、民間企業にも合理的配慮の提供が義務付けられるなど、共生社会の実現に向けた動きが加速しています。

 北欧では1950年代から「ノーマライゼーション」という理念が提唱され、障害者が健常者と同様の生活を送れるよう支援するのが当たり前となっています。一方、日本ではこの当たり前の理念が定着するのに時間を要しました。しかし、社会福祉の父と言われる糸賀一雄氏の「この子らを世の光に」という言葉にあるように、障害者が輝ける社会は健常者にとっても豊かな社会であるという考え方が少しずつ浸透してきました。

差別と偏見――過去と現在の日本社会
   日本では憲法で基本的人権が保障されているにもかかわらず、差別は根強く残っています。玉田氏がアパレル業界にいた25年前、障害者は「お客様に失礼」との理由で雇用から排除されていたといいます。その後、障害者雇用は徐々に改善され、現在、法定雇用率は「2.5%」に達しましたが、精神疾患のある人が公共の場に入れなかったり、盲導犬とともにレストランに入店できなかったりする事例は依然として存在します。

 また、全盲のマッサージ師が「日本人は誰も声をかけてくれない」と語ったエピソードを紹介し、無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)が社会の壁を作っていることを指摘しました。親が子どもの入学に際し特別支援学級のある学校を避けるなど、こうした偏見が差別を助長していると述べました。

障害は「価値」でもある
 「五体不満足」の乙武洋匡氏の「障害は個性」、ミライロ代表垣内俊哉氏の「障害はバリューである」といった考え方を紹介し、障害を「かわいそう」「大変そう」と見る固定観念を払拭することが大切と強調しました。障害者を特別視するのではなく、自分ごととしてとらえる姿勢が大事といいます。

一歩踏み出す勇気
 最後に、合理的配慮の必要性を説く動画を上映。社会的障壁を取り除くためには、私たち自身の意識改革と行動が求められると述べました。おせっかいに思われることを恐れず、「何かお手伝いできることはありませんか」と声をかけるなど、小さな行動から始めることが重要だと呼びかけ、講演を締めくくりました。

 この講演は、障害者差別解消法の意義を考えるだけでなく、私たち一人ひとりができる具体的な行動について考えるきっかけとなりました。

2024.9.24
vol.24

 

見寺貞子氏講演 シニアファッション―ユニバーサルファッション : おしゃれは高齢者・障がい者の心と身体のビタミン剤

 

  ユニバーサルファッション協会では、8月26日にオンラインでUFトークイベントvol.2を開催しました。講師にお迎えしたのは、神戸芸術工科大学名誉教授であり(株)髙嶋デザイン製作所代表取締役の見寺貞子氏です。テーマは『シニアファッション―ユニバーサルファッション: おしゃれは高齢者・障がい者の心と身体のビタミン剤』でした。

見寺氏は長年にわたり『ユニバーサルファッション』を研究テーマに掲げ、年齢や国籍、障害の有無にかかわらず、ファッションを通じて心豊かな社会を実現することを目指して活動されています。産官学民連携のもと、子どもや障がい者に向けたデザイン指導やモノづくり教室を通して、ユニバーサルファッションの教育と普及に努めてきました。なお、本イベントのタイトルは、2020年に出版された見寺氏の著書『ユニバーサルファッション: おしゃれは高齢者・障がい者の心と身体のビタミン剤』から引用されています。

ファッション業界はこれまで若者向けを中心に企画・生産・販売を行ってきましたが、現代では50歳以上の人口が半数を占め、高齢者が全人口の3分の1を占める時代となっています。このような社会において、国籍、性別、年齢、障害の有無にかかわらず、すべての人が豊かに生活できる社会の実現が不可欠です。そのためには、ファッションにおける「ユニバーサルデザイン」の意識を高め、社会全体でその構築を進める必要があります。
本トークでは、見寺氏がユニバーサルデザインの考え方をファッションに応用した「ユニバーサルファッション」に関する教育・研究・社会活動の事例を通じて、シニアファッションの効果とその重要性について語り、今後の生活に役立つヒントを示されました。

以下に、その講演のポイントをまとめました。

氏は、ユニバーサルファッションを研究対象にした理由を、1996年に開催した「高齢者・障がい者のためのファッションショー」に遡るといいます。その際、福祉条例「寝たきりゼロへの10カ条」と出会い、その中の4項目がファッションに関連していることに気づきました。具体的には、衣服の着脱がリハビリ効果をもたらし、身だしなみを整えることで脳が活性化することが示されていました。ファッションへの関心が残存能力を引き出し、社会参加を促し、QOL(生活の質)の向上に寄与するという考えが、この条例との出会いを通じて明確になり、ユニバーサルファッションの研究を始めるきっかけとなったのです。

また、ユニバーサルファッションにおいては、ユニバーサルデザインの7原則がどのように応用されているかについて、次のように説明されています。

1. 公平性 : 体格、年齢、障害の有無を問わず、誰もが快適に着用できる衣服の提供を目指す。
2. 自由度 : いつでもどこでも手に入りやすく、アクセス可能なファッションを実現する。
3. 単純性 : 誰でも簡単に着られるよう、サイズ調整が容易なデザインを追求する。
4. 分かりやすさ : 着脱しやすさを考慮し、わかりやすいデザインや着用方法を採用する。
5. 安全性 : 視認性を高めた、安全性の高い衣服を提供する。
6. 身体への負担の軽減 : 付属品に配慮し、身体への負担を最小限に抑える工夫がなされている。
7. スペースの確保 : 適度なゆとりを持たせ、快適な着心地を実現している。

衣服は「第二の皮膚」とも称され、人の生活に欠かせない存在です。人間工学(エルゴノミクス)の一分野である被服人間工学は、人間の体に心地よくフィットし、快適かつ審美性のある衣服設計を追求する学問であり、これがまさにユニバーサルファッションの根幹を成すとされています。

ファッションの学びは、まず人間の観察から始まります。年齢とともに体型が変わり、生理機能も衰えるため、機能性を重視したファッションが求められます。人間の姿勢や動きに応じて、各部位には異なる伸度が必要となるため、衣服制作では部位に応じた適切なサイズや伸縮性を考慮しなければなりません。また、体型や姿勢に合わせた補正が重要です。たとえば、背中や腰が曲がっている人や車椅子利用者には、パターンを調整し、肌が弱い人には縫い代が外にあるデザインや無縫製のニットを採用します。さらに、着脱を容易にするためにマジックテープやファスナー等を使用し、排泄を考慮した工夫として、前ファスナーを股下まで伸ばしたデザインのズボン等が推奨されています。

次に、年齢や障がい者を取り巻く問題について述べます。高齢社会の進展に伴い、身体障がい者の数は増加しており、その中でも肢体不自由者が53.9%を占めています。その多くは、脳卒中による片麻痺や脊髄損傷による対麻痺の患者です。
氏は、彼らの体型特性を理解することで、健常者との違いが明らかになり、より多くの人々が快適に着用できる新たな衣服設計が可能になると考えました。そのため、片麻痺者と対麻痺者の男女各1名ずつ、計4名を対象に配慮した衣服制作を行ったそうです。求められたのは機能性と装飾性を兼ね備えた衣服でした。外出用の衣服には、明るい色や機能と装飾が調和した素材が望まれました。また、体型面では左右対称に見えるデザインや、座位姿勢に適した台形シルエットが好まれ、特に座位姿勢に適合した日本の形状が有用であることが示されました。機能性では、前開き、大きめのボタン、前ファスナー、ウエストのゴム仕様、伸縮性素材の活用、さらにポケットの追加が要望されました。今後も、肢体不自由者に特化した衣服設計のためのシステム開発が期待されると述べています。

2004年には、ユニバーサルファッションの理念に基づき、障がい者に対応するユニバーサルボディの開発を目指して、片麻痺の高齢女性に対応可能な可動式ボディの研究開発に取り組みました。この結果、より人体に近い姿勢を再現できるボディが表現できたといいます。
若者と高齢者・障がい者の違いについては、体型やサイズ、機能性において高齢者・障がい者の不満が高い一方で、ファッション性、社会性、経済性に関しては大きな差がないことが明らかになりました。つまり、高齢者や障がい者でも、いつまでも若々しくおしゃれでありたい、社会の一員として積極的に活動したい、高価でなくてもおしゃれな服を着たいという思いが強いのです。このことから、衣服設計には、外見だけでなく内面の心のありようをファッションで表現することが重要であると指摘しています。

さらに、ガン患者に配慮したヘアハットの調査研究にも触れます。日本ではガン患者に配慮した帽子は市販されているものの、ベーシックな筒型が多く、選択肢が少ないのが現状です。2013年のデンマークでの調査では、楽しいデザインが豊富で、アメリカでもバリエーションに富んでいました。日本は快適性に配慮した素材や品質重視で、つけ心地は他国より優れています。ファッションを楽しみ、生活の向上に役立ててほしいと述べています。

また、社会活動として、しあわせの村との地域連携や、兵庫県警との減災ファッションの推進、2005年から2023年まで実施してきた兵庫モダンシニアファッションショーを紹介しました。この活動は2016年に映画化され、ドキュメンタリー作品「神様たちの街」が全国上映されました。この作品は2018年以降、アジアから欧米へと拡大しています。2016年からは洋裁マダム(シニア)?ユニバーサルファッション?リメイク教室を開いており、神戸の街をユニバーサルファッションのモデル都市にしようという活動を続けています。

その背景には、社会福祉国家として知られる北欧の理念が強く影響しており、北欧では人間の尊厳を重視し、自己決定や過去の暮らしの継続性、そして自己資源の開発が重要視されています。このような北欧の生活文化に学び、神戸では高齢者や障がい者が自分らしく快適に生活できるためのデザインを推進しています。これが、ユニバーサルファッションのモデル都市を目指す神戸の取り組みにもつながっています。日本ではファッションというと衣服を中心に捉えることが一般的ですが、欧米では生活全般のデザインが重要な要素とされています。北欧の生活文化においても、衣服だけでなく生活全般が自立支援に寄与していることを重視し、神戸でもその理念を体現していこうとしています。

今後の展望として、氏は、ユニバーサルファッションが生活文化として定着することを願い、ファッションを通じて「生活の向上」を実現し、さまざまな人々のライフスタイルに寄与することが大切であると強調し、講演を締め括りました。

2024.7.22
vol.23

 『障害者差別解消法と向き合うために』合理的配慮とは?

2021年に改正された障害者差別解消法が、2024年4月1日から民間企業にも障害者への合理的配慮の提供を義務付けました。これに伴い、企業が直面する具体的な問題とその対応方法について理解するため、ユニバーサルファッション協会では6月15日に介護インストラクターで介護福祉士の玉田拡之氏を講師に迎え、「障害者差別解消法と向き合うために」という勉強会を開催しました。

玉田氏は、1980年にアパレル「イーストボーイ」の営業としてキャリアをスタートし、24年間にわたりファッション業界で新規ブランドの立ち上げや店舗運営、商品開発、ブランドMDとして活躍しました。2000年に両親の介護を
理由に介護業界に転身し、デイサービスのヘルパーからデイサービスセンター長、有料老人ホームの施設長を経験しました。2014年からは介護福祉教
育学院の講師として求職者支援に尽力し、現在は大手介護福祉企業での資格取得研修や行政からの依頼による介護士養成講座の講師を務めています。

講演は玉田氏の豊富な実体験に基づいており、非常に興味深い内容でした。以下にその概要をまとめます。

前半:障害者に関する基本的な知識
まず、法律の歴史についてです。1970年に障害者基本法が成立し、1981年の国際障害者年を契機に、日本でも障害者福祉に関する法律が整備され始めました。2000年に介護保険制度がスタートし、2012年に障害者総合支援法、2013年に障害者差別解消法が公布されました。さらに、2016年に改正障害者総合支援法が公布され(2018年施行)、2021年には改正障害者差別解消法が公布され(2024年施行)、事業者による合理的配慮の提供が義務化されました。

次に、障害者の定義についてです。障害者は身体障害、知的障害、精神障害に大きく分けられ、先天性よりも中途障害の方が多いことが説明されました。身体障害には視覚、聴覚、肢体、言語、内部障害などが含まれ、知的障害は大人になる前の発達期に生じるもので、認知症は精神障害と定義されます。また、発達障害などについても解説されました。

さらに、1950年代に北欧から始まった「ノーマライゼーション」の考え方や、社会福祉の父と呼ばれる糸賀一雄の名言「この子らを世の光に」にも触れられました。また、1964年の東京オリンピックで初めて開催された日本のパラリンピックや、1996年のリオデジャネイロ大会でパラリンピック選手団とオリンピック選手団が合同で銀座凱旋パレードを行い、パラスポーツの盛り上がりに感動したことにも言及しました。

後半:障害者差別の事例と対策
後半では、多様な障害者差別の事例や対策が紹介されました。例えば、ある百貨店では、手に障害があることを理由に就労を拒否されたり、目立たない売り場でしか働けなかったりする事例が挙げられました。日本には、障害者を排除する社会が根強く残っていると指摘されました。
また、2024年度から法定雇用率が2.5%以上に引き上げられ、翌年には2.7%になる予定で、40人以上の企業は対応が必要となります。海外ブランドでは、障害者が売り場に立つことは一般的なことで、例えば世界ブランドとなったユニクロは雇用率が4.8%と高く、全店舗で知的障害者を雇用し、ジョブトレーナーがサポートしています。東京ディズニーランドやスターバックスも同様に、障害者を積極的に雇用しています。
日本では、法的には差別が禁止されているものの、実際には差別意識が強く、インクルーシブ教育が進んでいません。例えば、障害者がいるからその学校に行かない、議会の傍聴ができないなどの事例が依然としてあるといいます。障害者が社会に出ようとしても、その芽が摘まれてしまうことが多いのが現状です。
 欧米では障害者・高齢者を社会が支えるという考え方が一般的ですが、日本は家族が支えることが前提となっていて、このことも大きな課題といいます。

さらに合理的配慮とは、障害のある人もない人も同じようにできる環境を整えることであり、特別扱いするわけではないと説明されました。『五体不満足』の著者、乙武洋匡氏については「小学校から普通の学校へ入れた親がスゴイ!」と称え、また「障害とは個性である」や、車椅子ユーザーである(株)ミライロ社長の垣内俊哉氏の「障害とは価値である」の言葉を紹介しました。
ある車椅子ユーザーの女性が、おしゃれなレストランに行った際、車椅子のままテーブルに案内され、「私は車椅子ではないあのステキな椅子に座りたかったんです。足は不自由でもレストランの椅子に座れたのに、その一言がなかった」と残念がったエピソードが紹介されました。その人が何を望んでいるのかに関心を持つことが大事で、合理的配慮とはそういうことであるとも語られました。

最後に、障害者問題は人ではなく環境や社会の問題であると強調され、一人ひとりの違いを理解し、しっかりとコミュニケーションをとることが重要であると締めくくられました。

 

2022.11.12
vol.22

 ユニバーサルファッションに関する新聞記事掲載

この4月に広島の中国新聞社からユニバーサルファッションに関する取材を受けました。大変遅くなりましたが、その時の掲載記事(4/30付け)をここに掲載いたします。

2021.6.10
vol.21

 

ミライロハウス「コオフク洋裁」ファッションイベント開催
一人ひとりの悩みごとに応えてリデザイン

 東京・丸井錦糸町店の「ミライロハウスTOKYO」で、3月20日~3月28日、「コオフク洋裁」のファッションイベントが開催されました。

イベントは「新しいファッションの購入体験!」というものです。どういうことかといいますと、既製服というのはとかく障がい者にとって不満の多いものです。「着替えにくい」「ここにポケットがほしい」「ボタンが締めづらい」など、一人ひとりが服についての悩みを抱えています。「コオフク洋裁」ではそうした困りごとを聞いて、それぞれが着やすいデザインにつくり直します。制作期間は約1.5~2ヶ月で、ミライロハウスで販売されます。
会場にはサンプルを着装したマネキンやハンガーが並んでいました。どれもとてもファッショナブルにリデザインされていて、パターンや仕立ての良さがわかります。


またこれらの元の服は、在庫買取業のショーイチ(shoichi)からコオフク洋裁に無償提供されたものだそうです。ですから古着ではなくてまさに新品です。お値段もお手頃ではないかと思いました。

例えばパンツは、長時間座っても楽なように、後ろにスエット生地を使って履きやすく、トレンドのパッチワークでおしゃれにアレンジされています。7,500円です。スカートは長い丈の場合、トイレに入って汚したりひっかけたりしやすいです。そこでバルーンシルエットにリデザインして機能的で可愛く仕上げています。4,900円~。一日に数着は売れているようで人気は上々、とくに以前私が2020.12.21付けの記事、~POP‐UP型イベント「246st.MARKET」~でも取り上げたマスクの売れ行きは好調といいます。

 コロナ禍の憂鬱を明るい気分に切り替えてくれるのは、やっぱりファッションです。今回のイベントは終了しましたが、次回を楽しみに、今後のコオフク洋裁に期待しています。

2021.2.28
vol.20

 

IAUD国際デザイン賞2020

SDGsの原則「誰一人取り残さない」とUDの基本理念「包括性」(inclusivity)の連動がより明確に

ユニバーサルデザイン(UD)を基本理念として活動している国際ユニバーサルデザイン協議会(IAUD)が実施している「IAUD国際デザイン賞2020」のプレゼンテーション/表彰式が、昨年12月18日に開催されました。オンラインにての開催で、私もメンバーの一人として参加させていただきました。

2020年で10年を迎えるこの賞には、世界14か国から67件のエントリーがあったとのことです。「大賞」1件、各部門の「金賞」9件、「銀賞」19件が選ばれました。また2019年から設けられている「銅賞」が、今回は思いがけなく35件と多数選定されていて、UDの奨励に喜ばしいことと思ったことでした。
とくに目新しかったのは、受賞作品に、各作品と関係の深いSDGsの目標が表示されていたことです。SDGsの原則は「誰一人取り残さない」で、UDの基本理念である包括性(inclusivity)と合致しています。UDとSDGsが連動していることがはっきり伝わって、受賞者にとっても大いに励みになると思いました。


大賞 米国オリンピック&パラリンピック博物館

大賞は、もっとも優れていると評価されるデザインに贈られます。2020年は公共空間デザイン部門から、米国オリンピック&パラリンピック博物館が受賞しました。
コロラド州コロラドスプリングズ市に2020年7月30日に開館した新しい博物館です。あらゆる人に公平に開かれているインタラクティブな博物館で、オリンピアンもパラリンピアンもコンテンツとデザインを通じて真にインクルーシヴな体験をすることができるといいます。展示品は障害のある人の特定のニーズや好みに応じて、一人ひとり個別に設定でき、設定の変更も自在とか。
まさにすべての人のための博物館のすばらしい実例ですね。


金賞 パワードウェア「ATOUN」


「IAUD国際デザイン賞2020」で金賞の受賞作品は9件ありました。中でも私がもっとも興味深く思ったのが、ATOUNのパワードウェア「ATOUN MODEL Yシリーズ」です。


銀賞「みんなのピクト」安心の食事


「IAUD国際デザイン賞2020」で銀賞を受賞した19件の内、ぜひご紹介したいと思ったのが「みんなのピクト」です。

これは食物アレルギーなどの情報を正しく伝えるピクトグラム(絵文字)で、電通ダイバーシティ・ラボ/一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会/東京電機大学が、誰でも安心して食事を楽しめるようにと、協働開発したものです。対応するのは特定食材28品目で、延べ1000名以上の協力を得て「図案の妥当性」や「ぼかし・縮小状態での視認性」などを調査し、検証を重ねて完成させたといいます。

近年、アレルギー疾患の子どもたちが増えているといわれます。10年前ですが、厚生労働省の調査によると、0歳~14歳の子どもたちの約40%に、東京・大阪など都市部に住む4歳以下の子どもたちに至っては51.5%、つまり2人に1人の割合で何らかのアレルギー症状が認められたそうです。原因は花粉やダニなどが中心ですけれど、食物が原因とされるものも数%あるといいます。この「みんなのピクト」が食品の包装やパッケージに付けられて、?アレルギーの心配なしにすべての人が食事を楽しむ社会になるといいなと思います。

日本のピクトグラムは世界的に高く評価されていますし---。もしかしたらこれが日本発祥のトイレマークのように、世界標準になるかもしれません。そう思うとうれしくなります。


医療用ストッキング「クールララ」

「IAUD国際デザイン賞2020」で数は少なかったものの繊維製品の受賞もありました。その一つが医療福祉部門で、銅賞を贈られたベーテル・プラスの医療用弾性ストッキング「クールララ」です。

リンパ浮腫や静脈瘤を治療中の患者さんのために開発された医療用製品ですが、デザイン性が高く、穿いたら元気になれそうです。ムレから解放され、少しでも明るく楽しく過ごしてほしい、そんな想いで開発したといいます。カラーはきれいな色のツートンカラー配色で、着用時はオーソドックスな色目のみが見えるようにデザインされています。切替線を生かしたバランスのとれたスタイリングで、編地は漸減的に加圧する設計、縫い目を表側に出した縫製は敏感肌にも優しい仕様です。小物入れとして使えるパッケージも、ストッキング着用をイメージできる「脚シルエットの透明窓」付ポーチになっていて、プレゼントにしても喜ばれそう。

こんなハイスペックな機能美が評価されて、2019年度のグッドデザイン賞を受賞。新型コロナでメディカル衣料がクローズアップされる中、ファッション企画にヒントを与える注目の受賞といえそうです。


オネスティーズ 裏表前後ない肌着

ファッションデザイン部門で銅賞を受賞したのが、大阪府泉佐野市にあるオネスティーズ(HONESTIES)の裏表や前後のないスマート肌着です。
前と後ろの区別がなく、裏も表も気にしないで着用できるとは、何て楽チン。肌着を着るときには、必ず裏表や前後を確認しないといけません。おっちょこちょいの私はよく間違って袖を通してしまいます。あとで気づいて着直すことも度々。洗濯ものも、裏返ったものを返してたたむなど、意外とストレスでした。どんな風に着ても、正しく着られる肌着は、とくに視覚障がいなどのハンディキャップのある方には朗報です。
この肌着開発のきっかけとなったのが、目の不自由な方との出会いだったそうです。全盲の中学生ドラマーの動画をご覧ください。

生地は裏表のないコットン100%のもの、縫製は縫い目で肌を痛めない特殊な4本針ミシン「フラットシーマー」を採用しているとのこと。2020年度グッドデザイン賞を受賞しています。
 
ビジネスマンや子育て、介護などで忙しい方にも裏表や前後がないなら、シンプルで簡単。これぞまさしくユニバーサルデザインの衣服ですね。

2021.2.3
vol.19

 

ユニバーサルファッション「人を元気にする力がある」(2)

「ファッションは人を元気にする力がある」のトークセッションで、続いて登場したのがコヒナ (COHINA)代表/ディレクターの田中絢子さんです。2018年1月に小柄女性向けブランドのコヒナを創業、インスタで知られるようになり、1年半で月商5,000万円を達成、1回のインスタライブで200万円を売り上げるという、今話題の起業家です。

 セールスポイントは「アラウンド150 cmの小柄女性を綺麗に見せる服」で、身長155cm以下の女性が対象。日本人女性の平均身長は157cmなので、全体の2~3割に当たるとのことです。田中さんご自身148 cmでとってもキュートで可愛らしい。前職はマーケティングで、アパレルは素人だったそうですが、ご自身に似合う服がなかなか見つからない。身長が低いというだけで、ファッションを楽しむ可能性が閉ざされてしまっていると感じ、それなら創ろうとブランドを立ち上げたといいます。
 コアな客層は小柄の中でもとくに小さい150 cm以下の小柄さん。彼女たちに向けて、どちらかというとベーシックな服を展開しているといいます。というのもその多くが、皆が当たり前に着ている服を私も着てみたいと思っているからだそうです。一歩先をチャレンジする前に、当たり前を当たり前のように着たい顧客に合わせて品揃えしているとか。
 ベーシックというとユニクロがあり、サイズも豊富です。しかしそのSサイズでも大き過ぎて、丈詰め一つとっても、お直し代の方が商品代よりも高くなってしまうそう。
 そうした悩みをすくいあげているのが、SNSを通じたコミュニケーションといいます。インスタグラムのフォロワーは現在15万人いるとのことです。こんな商品が欲しい、ここのサイズが困っているなど、インスタライブでリアルタイムに客の声を聴き、それを直接商品に反映するモノづくりをしているそうです。生産元の工場とも直接会話しながらつくっているのも特徴で、デザイナーではないからこその商品展開ができていると語ります。
 D2C形式で客との距離感を縮め、事前のヒアリングを行って在庫を積まない、DNVB(デジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランド)として確立していることが、まさにこのブランド成功の秘密なのですね。
 
 このトークセッションで、フライングジーンズを開発した加藤健一さんは、「このジーンズを穿くとかっこいいと言われる、それがうれしくて外に出てみたくなる」と言われて感激したそうです。コヒナの田中絢子さんは「サイズが合うというだけで社会の一員として認められた気がした」の声を紹介し、服は人の存在にかかわるものだった、服には人を肯定する力があるとコメントされていました。
 お二人のお話しを伺って、「ファッションは人を元気にする力がある」ことに改めて感動しました。

2021.2.3
vol.18

 

ユニバーサルファッション「人を元気にする力がある」(1)

 昨年11月初旬、東京・渋谷で国内最大級のソーシャルデザインの都市フェスSOCIAL INNOVATION WEEK(SIW)が開催され、ユニバーサルファッションをテーマにしたトークセッションが行われました。題して「ファッションは人を元気にする力がある」です。山形バリアフリー観光ツアーセンター 代表理事の加藤健一さんと、コヒナ (COHINA)代表/ディレクターの田中絢子さんが登壇し、MASATO YAMAGUCHI DESIGN OFFICE代表/デザイナーの山口大人さんがモデレーターを務めました。

 山口さんは昨今ファッション業界に旋風を巻き起こしているサステナブルファッションを専門に活動されています。誰もがファッションを楽しみ続ける社会を創ることが、サステナビリティになり得るというヒントをこのセッションから引き出して欲しいといいます。車椅子のために生まれたジーンズ「フライングジーンズ (Flying jeans)」の発案者である加藤健一さんと小柄女子のためのファッションブランド「コヒナ」を運営されている田中絢子さんとの対談は、ファッションがいかに人を豊かにする力があるか、その力がいかに社会をポジティブに変える可能性を秘めているかを伝えてくれました。

 ファッションが持つ“人を元気にする力“とは何か、下記は登壇した二人が語った興味深いストーリーです。

 世界最軽量の重さ3.5kgの車いすを使用している加藤さんは、通称「空飛ぶ車いす社長」と呼ばれているそうです。山形県南陽市を拠点に、山形バリアフリー観光ツアーセンターの代表理事をはじめ、様々な活動をされています。
 21歳で筋ジストロフィーを発症し、車いす生活となって一番感じたのはあきらめなければいけないことの多さだったとか。そのバリアを片っ端からこわしていきたい、こんな思いから始めたのが車いすでのフライトだったといいます。
 地元のハングライダーのフライトエリアは、世界で唯一の障がい者を受け入れる施設だそうです。憧れの福祉国家、デンマークからも多くの観光客が車いすでフライトを楽しんでいかれるとか。
 こうした「バリアフリーインバウンド」や障がい者用駐車場の塗装作業「ブルーペイント大作戦」などに取り組む中で、「フライングジーンズ」も誕生したといいます。

 ジーンズは障がい者にとって穿きにくいアイテムの一つなのですね。車いす利用者は、柔らかくて伸びるスウェットやジャージーパンツで過ごす人が多いといいます。でも皆が当たり前のように穿いているジーンズです。ジーンズのおしゃれをあきらめて欲しくないと思い立ち、丸安毛糸とコラボし、両国の丸和繊維工業の「動体裁断」という特殊な裁断法によって、座った状態できれいにはけるジーンズを開発されました。
 これにより座ってもウエストラインが下がらず、膝を曲げた時に突っ張る不快感もなく、脱ぎ着しやすくなったそう。裾が上がらないし、不自然なしわも寄らないため、見た目も良くてかっこいい。¥28,000も高価ではないようで、海外からも注文がくるといいます。
 はきやすくてシルエットが良いので、座って仕事することの多い健常者にも好評の様子です。これぞユニバーサルファッションのジーンズですね。

2020.12.29
vol.17

 

POP‐UP型イベント「246st.MARKET」
「CO-FUKU masQ コオフクマスク」に注目


 先般10月14日~18日、青山通りに位置するワールド北青山ビルにてPOP‐UP型イベント「246st.MARKET」が開催されました。


 今年のテーマ、“サーキュレーション・ライフスタイル”の下、衣・食・住までジャンルを超えたブランドが集結する中、私がもっとも興味を惹かれたのが「ワールド×コオフク プロジェクト」(右上の写真)です。
 これは任意団体コオフクと、障がいがある人が抱えるおしゃれの悩み・課題を理解し、リデザインし、成果発表までを行う取組みです。

 中でも今回人気だったのが「CO-FUKU masQ コオフクマスク」の展示販売でした。
 マスクは今や必需品です。障がいのある方に向けて、様々な工夫を凝らした下記のようなマスクが提案されていたのでご紹介します。

ワンハンドマスク
 カタマヒの方々に向けたマスクです。口を使ってマスクを顔に固定し、紐を耳にかけられる様、裏側にタブが付いています。
 (右写真は、その裏面)

猫ひげマスク
 視覚障がいの方々向けに開発したマスクで、“風や空気の流れ”を遮らないように工夫されている、まるで“猫のひげ” の様な役割をするマスクです。
 ガーゼやメッシュ、レースなど通気性の高い素材で切り替えを入れたり、マスクの上下・表裏の分かりにくさに対応するため、異素材の生地を組み合わせたりして仕上げています。

パカットマスク
 脊髄性筋委縮症でも息苦しくないマスクです。マスクをすると呼吸が苦しくなる悩みを解消するため、通気性・伸縮性に優れた生地を採用し、デザインも空気の通り道を確保する立体構造になっています。またマスク部分の下をめくると吸引や食事ができる仕様です。ですから一日に何度もマスクを外したり着けたりする必要はありません。これもすばらしいアイデアと思いました。


2020.09.14
vol.16

 

ミライロ「Bmaps」の交流イベント オンラインにて開催

 この5日、株式会社ミライロ主催「Bmaps」の交流イベントが、オンラインにて開催されました。
 先月訪問した「ミライロハウス東京」は、このミライロが運営する初めてのショップです。
 「Bmaps」とは、ミライロが提供するバリアフリー地図アプリで、障害者や高齢者、ベビーカー利用者、外国人など、多様なユーザーが外出時に求める情報を共有・発信するサービスです。

 今回で3回目となる交流イベントは初のオンライン開催となり、「ミライロハウス東京」を基地局に、全国に発信された模様です。(右はミライロハウス東京の受付カウンター)

 株式会社ミライロ 代表取締役社長 垣内 俊哉氏の開会の挨拶の後、パネリストとして東 ちづる氏(俳優 / 一般社団法人Get in touch 理事長)、安藤 美紀氏(特定非営利活動法人MAMIE 理事長)、中村 珍晴氏(神戸学院大学 講師)、原口 淳氏(一般社団法人日本ユニバーサルマナー協会 講師)が登壇、垣内 氏の進行で座談会が行われました。

 まずコロナ騒動でどのような変化があったのかを語り合います。
 安藤 氏は、聴覚障害者のための補助犬、「聴導犬」の存在を広めることができたといいます。盲導犬は知っていても、意外と聴導犬は知らない人が多いです。
 原口氏は、趣味のブラインドサッカーができなくなり寂しかったと話します。
 中村氏は、ネガティブなのは学生に会えないこと。とはいえオンライン授業での発信はポジティブに受け止めているそう。
 東氏は、俳優業がピンチに陥り、その上この2月にオープンした雑貨ショップが、たちまちコロナで閉店の憂き目にあってしまったとか。しかしオンラインイベントやトークでは障害のある人が参加しやすいなど、無限の発見があったといいます。
 次に在宅勤務で気づいたこととして、安藤 氏は、マスクで口の動きが分からない。オンラインでは必ず手話通訳をつけて欲しいなど。
 さらに多機能トイレや、新幹線などの移動での問題など、健常者ではなかなかわからない話題が上り、大変興味深く視聴しました。

 上は、最後に見せていただいたグラフィックレコーディングです。Bmaps運営事務局が送ってくれました。素晴らしいレポートですね。

2020.09.13
vol.15

 

「ミライロハウス TOKYO」初のリアルUDの店舗を訪問

 「ミライロ」は、ユニバーサルデザイン(UD)のコンサルティングなどを行っている企業で、本部は大阪にあります。私は4年前、同社講師で日本ユニバーサルマナー協会理事の岸田ひろみさんのご講演を拝聴したことがあり、いたく感動したことを覚えています。

 このミライロが初のリアルUDの店舗を先月1日、開業したと伺い、訪問しました。
 場所は丸井錦糸町店5階のオープンなスペースです。UDに関する情報発信と交流の拠点となる体験型店舗で、障害がある人に向けた最新のサポート用品が展示されています。

 私が注目したのはやはりファッション商品です。
 右のパンツは、丸井が手がけるブランド「RU(アールユー)」の「らくちんきれいパンツ」です。綿92/ポリウレタン8のストレッチジーンズで、サイズが豊富、12サイズをカバーするそうです。

 ナイガイのUDソックス「みんなのくつした」も3タイプ、出ています。左から、締め付け感が気になる方向けの脱ぎ履き簡単「ゴムのないくつした」、優しい履き心地の「ガーゼのようなやわらかフィット」、履き口から足首までフィットする「足首までサポートする快適フィット」。いずれも優しさやフィット感にこだわった靴下です。
 触ってわかるサイズ印を足底に編み込んだものもあります。1本印は22~24cm、2本印は24~26cmというように。

  試着室はシンプルで機能的なつくりで、何と言っても広い。これなら車いすも悠々と快適に、もちろん安全に試着できると思いました。

 この他、視覚支援デバイスなどからボッチャ、車いすまで。
 とくに目に付いたのが車いす用の「スマートドライブ」です。手動車いすに簡単に取り付けられる着脱式電動アシストで、漕ぐ力が弱い方におすすめといいます。
 
 イベントも毎月4~5回開催の予定とか。
 ここに来れば思いがけない価値を発見できそう。まずは行ってみることですね。 

2020.05.22
vol.14

 

「フェーズフリー」日常と非日常を区別しない考え方

 新型コロナウイルスが蔓延している今は、まさに非常時です。そこで思い出したのが、日常と非日常を区別しない「フェーズフリー」という考え方です。  

 私がこの言葉を知ったのは、昨年12月のIAUD(国際ユニヴァーサルデザイン協議会)研究部会のときです。その後の交流会で、フェーズフリー協会代表 クリエイティブディレクターの佐藤唯行氏によるプレゼンテーションが行われました。
 (右は同協会出版の書籍です。)

 佐藤氏によると「フェーズフリー」とは、日常時と非日常時という社会のフェーズ(時期、状態)を取り払うという意味だそう。 つまり災害からフリーになることであり、普段利用している商品やサービスが災害時に適切に使えるようにする価値を表した言葉であるとか。 
  フェーズフリー協会はこの考え方を基に“いつも”も“もしも”のときも、安心して暮らせる社会を目指して活動しているといいます。これはまさにユニバーサルデザイン(UD)に通じるコンセプトですね。
 同協会が関わった事例も挙げられました。そのいくつかを簡単に下記に記します。
 現在アスクルの通販カタログで販売されている「紙コップメジャーメント」―目盛り付きなので避難所などで粉ミルクの計量ができる紙コップ―、朝倉染布の超撥水風呂敷「流れ」―濡れたものを包んだり、傘代わりになったり、バケツ1杯分の水を汲むこともできる進化した風呂敷―などから、池袋エリア周遊バス路線を走る電気バス「イケバス」―災害時には蓄電池として活躍するバス―、愛媛県今治市クリーンセンター「バリクリーン」―地域の憩いの場・防災施設としての機能を有するごみ処理場―。
 この他にも、バオバオイッセイミヤケの蓄光素材を利用した夜の闇で発光するバッグ、歩くと発電するのでスマホの充電に役立つシューズ、スツール型防災トイレの「トイレスツール」など、様々な「フェーズフリー」のデザインを紹介。

2020.03.10

vol.13


「わたしとコートと□展~買い手目線のバリアフリー考える」

 すべての人がファッションやショッピングを楽しむために


 任意団体コオフクが主催する「みなとコオフク塾」の『わたしとコートと□展』が、2月1日から6日まで、ワールド北青山ビルで開催されました。「みなとコオフク塾」というのは、障がいの有無に関わらずファッションを楽しむことを目的にしたプロジェクトで、東京都港区にゆかりのある“多様な人々”が集い、障がいのある方が抱えるおしゃれの悩みや課題を理解し、衣服をリデザインするプログラムを実施されています。

 今回のテーマが「コート」だったのです。このプログラムにはワールドグループのブランド「オペーク ドット クリップ」と「ザ ショップ ティーケー」のメンバーも参加しているそうで、それぞれのブランドが展開するコートをもとに、回を重ねてつくったワードローブがマネキン展示されています。

 本展の初日、関連イベントとしてトークセッションがあり、私も行ってきました。登壇したのはイオンモール甲府昭和ゼネラルマネージャー 東朋浩氏、丸井グループサステナビリティ部ダイバーシティ&インクルージョン推進担当 井上道博氏、東急不動産 都市事業本部 商業施設開発部 若津宇宙氏と、コオフク プリンシパル 西村佳子氏です。本セッションの企画運営を担当されたFashionStudiesの 篠崎友亮氏の進行のもと、「買い手目線のバリアフリー」と題して、商業施設における現在のバリアフリーの取り組みや施策などが語られました。

 まず東氏が、イオンモールの「人にやさしい施設・街づくり」を、井上氏が、丸井が実施しているユニバーサルデザインの様々な試みを、若津氏が、開発を手掛けた東急プラザ渋谷にみるバリアフリーの考え方を、自己紹介方々プレゼンテーションされました。

 次にフリートークとなり、エレベーターやトイレ、手すりなど商業施設におけるユニバーサルデザインの具体例が紹介されました。中でも興味深かったのが、井上氏のお話です。博多丸井では4,000人のモニターがいて、車いすユーザーなどの方々からの視点で、ハード面の改善がされているといいます。車いすの方は足の小さい方が多いそうで、レディス靴で19.5cm~27.0 cmのサイズを揃えたブランドを展開されているとか。また有楽町丸井では昨秋「すべての人」が使いやすい試着室『みんなのフィッティングルーム』を設置。自分の部屋にいるような広々した空間で、使いやすさが好評だそう。これに続けてハード面の充実以上に大切なのは「おもてなしの心」と強調され、接客には何よりも思いやりの精神で臨むように、従業員教育に力を入れているといいます。

 さらに意外でおもしろいと思ったのが、若津氏による客の属性に関する話題です。東急プラザ渋谷で一番多いのは在住外国人、次に外国人観光客、そして三番目がシニア層だそうで、夜のエッジ―なバーには高齢の方がたくさん来ているといいます。現在、1階の観光案内所で運営に携わっている同氏、そんなことも意識して「渋谷のロビー」を盛り上げていきたいと話していました。

 イベントの最後に、「みなとコオフク塾」修了書授与式があり、ワールド代表取締役の上山健二氏よりワークショップに参画した各チームに、修了書が贈られました。おしゃれが好きで新しいことにトライしたい、でもどうしたら楽しめるか分からない。そんな好奇心旺盛な人たちの思いと悩みを繋げ、カタチにしていくこのプロジェクト、ほんとうに尊いと思います。
 継続を願いつつ---、会場を後にしたことでした。

2019.12.04

vol.12

 

国際福祉機器展 「超高齢社会を救う人にやさしいロボット」

 先般、東京ビッグサイトで開催された第46回「国際福祉機器展 H.C.R. 2019」で、信州大学発ベンチャー「アシストモーション(AssistMotion)」が出展し、同社代表の橋本 稔氏が「超高齢社会を救う人にやさしいロボット」と題して講演しました。

 橋本代表はこの春まで信州大学繊維学部の特任教授でした。国際福祉機器展では長年にわたり同大学として参加されていたのです。
 今年は大学を退官されたこともあり、2017年にご自身が創設した企業「アシストモーション」で出展されていました。

 講演内容は大きく次の二つでした。
 一つは、ウエアラブル(着る)ロボティックウェア「クララcuraraⓇWR」です。ちなみにWRは、WALKING REHABILITATION(ウォーキング・リハビリテーション)の略です。もう一つは腰サポートウェア「ハイジ heige LS」です。
 まず「クララ」は歩行をアシストするロボットで、4号機スタンダードモデルには次のような特徴があります。
 ⑴ 4kgと軽量で、動きやすい。⑵ 装着が簡単。着脱は1分程度でできて容易。⑶優しいアシスト。装着している人のリズムに合わせて歩行をアシストする。⑷ 充電一回で2時間使用可能。⑸小回りの利いた歩行ができ、街中を歩いてもそれほど違和感はない。歩幅が広がり速く歩けるようになるなど。 既に病院や介護施設などで実証実験されていて、自立支援に役立っているといいます。
 その上でこのほど新たに開発した起立アシスト制御技術が紹介されました。これまで椅子に座った状態から立つことが一苦労だったのが、この新技術ですっと立ち上れるようになるそう。デモンストレーションも行われました。立つ動作に合わせてロボットが立ち上がりやすくしてくれるといいます。

 次に「ハイジ」です。これは背面に設置されたPVCゲルアクチュエータが伸縮し、筋力をサポートしてくれるものだそう。PVCゲルアクチュエータとは、ポリ塩化ビニル(PVC)を可塑剤によりゲル化した高分子素材で、電圧を印加すると陽極の表面に沿って変形する特異な性質を持っているといいます。この電気応答性を利用して、実現されたのが生体筋肉のように伸縮駆動する世界初の“人工筋肉”なのです。やわらかくて軽量、透明、しかも比較的安価で、国際会議のデモセッションでは最優秀賞を獲得するなど、今大いに注目されているといいます。

 試作機では円筒の中に約2kgのアクチュエータが入っていて、クララの起立アシストもこの筋肉の働きでふんわりと浮くように立ち上がることかできたとか。とくに挙上動作が楽になるそうで、重さ10 kgもの箱を持ち上げる実演も実施されました。写真はそのときの様子を撮ったものです。 試着されてスイッチが入った途端、引っ張り力が働いて、軽く持ち上げることができたそう。腰への負担が軽くなる効果を実感したとのお話しでした。
 これは今後、介護現場や農作業、建設、運輸など、あらゆる作業シーンで腰の負担を軽減するサポートウェアとして使われることになりそうです。

 最後に、これらをどう事業化していくか、抱負を語られていたのでご紹介します。
 「クララ」は2020年の量産化を目指していて、これに先駆け、有償モニタ貸出しをするとのことです。初期費用12万円、月額8万円で、最低でも3ヶ月間使用した感想をフィードバックしていただき、さらなる改良につなげていくそう。このお試し価格で、“着るロボット”をぜひ体感して欲しいといいます。
 「ハイジ」は2021年を目標に製品化に向けて邁進していくとのことでした。
 
 我が国ではロコモ(運動器症候群)は、“国民病”とまで言われています。変形性関節症と骨粗鬆症に限っても、推計患者数は10年前の統計で4700万人だったそうですから、現在はもっと増えていると思われます。 私もいつか歩けなくなります。でも「クララ」や「ハイジ」で希望を見出せそう。最期まで自立して生きていくために、ウエアラブルロボティックウェアはなくてはならないものになってくるでしょう。早く普及して多くの人々が救われる社会になることを願ってやみません。 
 このことにご尽力されているアシストモーションの橋本代表に改めて敬意を表します。

2019.9.28

vol.11

 

ファッションビジネス学会「0704=おなおし」を考察する講演会

 今夏、ファッションビジネス学会で「FORUM 0704 2019」が文化学園にて開催された。これは7月4日を「0704=おなおし」の日として考察する講演会である。

 トップは日本エシカル推進協議会 理事 薄羽 美江 氏で、テーマは「SDGsを自分ごとにする JEI-SDGs Surveyでエシカル・セルフブランディング」。まずはSDGs(持続可能な開発目標)から。2030年の世界目標「誰も取り残さない/置き去りにしない」を目指し、よりよい未来を実現するための17のゴールズを解説。VUCA「Volatility(激動)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(不透明性)」)社会の到来で、予測不可能な時代となった今、日本が提唱するソサエティー5.0は、これまでソサエティー4.0と呼んでいた情報社会に替わる創造社会であり、SDGsに貢献する未来社会の成長モデルと力説した。
 次に参加型で「SDGs online Survey」を実施。一人ひとりスマホを取り出して、SDGs度を自己診断した。日本のSDGs度は昨年の達成度ランキングによると156カ国中15位で、北欧諸国などに比べると低い。エシカル消費の認知度は今一で、ラーニングとプロモーションによる支持と行動の促進が必要という。市民のボイコットならぬ「バイコット(Buy-cot)」による市場形成や、ESD(持続可能開発教育)が求められていると強調した。

 2番手は「日本の伝統柄を襖紙にして世界に」と題して登壇した夏水組代表 坂田 夏水氏と大場紙工 大場 匠真 氏。大場氏は、襖紙を壁紙のように使うことを思いつき、坂田氏と協働して、日本の伝統柄を用いた意匠のオリジナル襖紙ブランド「夏水組」をプロデュース。「メゾン・エ・オブジェ・パリ」にも出展し、国内外から注目を集めているという。

 最後は、朝日新聞記者 藤田 さつき 氏とPOSSEの岩橋 誠 氏による「衣服の大量廃棄は労働問題と繋がっているのか」をテーマにした対談。SDGsの17目標の中で、12の「つくる責任、つかう責任」、8の「働きがいも経済成長も」に注目し、環境問題は労働問題でもあると結論づけたことが印象的だった。藤田 氏は「大切なのは知ること、知った上で行動すること」。岩橋 氏は「それが本当にエシカルでサステナブルなのか、チェックする取り組みが重要」などとコメントして、フォーラムを締め括った。

2019.9.18

vol.10

 

ギフトショー ライフ×デザイン展ダイバーシティプロダクツ

 この3~6日、東京ビッグサイトで開催されたギフトショー東京2019秋で、併催された「ライフ×デザイン展」を見て来ました。新企画がいろいろある中で、とくに興味深かったのが特別展示イベント「ダイバーシティ プロダクツ」エリアです。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックを控え「多様性」、つまり「ダイバーシティ」という言葉がより身近なものになってきたことを受けて、このエリアが新設されたといいます。
 ここでは様々なマイノリティに合わせた製品の展示が行われていました。
例えば目に障がいを持っている方でも利用できる腕時計や、口当たりのやさしい介助に適したスプーン、など---。

 右は、結ばなくてもいい靴紐の「クールノット」です。COOLKNOT JAPANの製品で、伸縮性があるので靴のフィット感が高まり、脱ぎ履きが楽、というメリットがあります。 結ばなくてもいい、結ばないからほどけないという逆転の発想から生まれたといいます。

 右は、超簡単で軽くて優しい車いす用の着物セットです。リノーズの「えもん(EMON)」というブランドのもの。
 2部式で下衣のスカート部に特定の構成パターンを採用しているので、座ったままで楽に着られ、着崩れ防止性も高く、着用者の着心地もよいといいます。
 開発されたのは東京・渋谷のパターン企画テルヌマ代表の照沼範子さん。パタンナー歴42年のベテランです。
 本格的な着物スタイルを誰でも一人で簡単に着られる着物として再現されました。3ステップ、たった3分で着付け完了、洋服感覚で手軽に着られるといいます。
 とくに最近は喪の着物の需要が増えているとのことでした。

 これまで着付けが困難で着物を着るのをあきらめていた方も、これなら着物スタイルを楽しめます。これもまた「ユニバーサルファッション」と思いました。

2019.9.4

vol.9

 

セミナー「パナソニックのユニバーサルデザインの取組み」

先日、ユニバーサルファッション協会の定例会、カラート71プロジェクトでユニバーサルデザイン(UD)の家電に関するセミナーが開催されました。テーマは「パナソニックのユニバーサルデザイン第一人者 中尾洋子さんに聞く ― 誰もがいきいきと暮らせる社会を目指す最先端のユニバーサルデザイン」です。
 創業以来「UDは我社のDNA」と宣言するパナソニックは、UDのリーディングカンパニーとして自他ともに認められる存在です。今年も国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD)国際デザイン賞金賞を二部門で受賞しました。医療福祉部門の「歩行トレーニングロボット」と、住宅設備部門で高齢者でも安全に利用できる「スマイル浴槽」です。
中尾洋子さんはこのパナソニックで2005年からUDを担当、全社UD推進担当 主幹として商品開発から広報活動まで様々なかたちでUDに関与されています。
 本セミナーでは、実際に開発に携わられた幅広い事業領域の商品やサービスを例に、UD を実現する様々な取り組みを語られました。その要点をピックアップしてみましょう。
 最初の話題は「“様々な人が使い、暮らしの中で人の近くにある家電”だから考えてきたこと」です。家電は生活必需品ということもあり、想定していない人の安全性も考える必要があるといいます。例えば洗濯機ですが、「ななめドラム式」が車いすユーザーにも使いやすいと、好評を得ているとのことです。
 次に「大切に思っているのは想像力と創造力」というお話に移ります。障がいを持っている方には想像力を働かせて、「何かお手伝いしましょうか」と声をかけるなど、選択肢を提供していくことが大切といいます。ここでのキーワードはまさにこの「選択肢」です。商品開発にあたっては、多様な選択肢に配慮した視点が欠かせないと強調します。環境や製品が対応していれば、障がいは顕在化しないのです。 
 例えば目の見えない方もTVや照明を使われているのですね。視覚障がい者の方は日常的に家電を使用されている、その例としてTVがあります。TVは情報の入手になくてはならないものになっているといいます。音声による美術館鑑賞ガイドも必須のサービスになっている様子です。また視覚障がいといっても全く光を感じていないという訳ではないので、防犯のためにも照明は必要といいます。

 右は肢体不自由者のために開発したというライトです。
 手の甲や肘でも押して使え、電池はどのタイプのものでも対応可能という大変便利な照明器具です。

 ここからは具体的な取組み事例を、実物とともに次々に紹介されました。

 まずは世界初のUDフォントの開発とその具体的活用例から、白内障疑似体験ゴーグルの開発、家電では手・指以外でも操作できる「レッツリモコン」(右)など。

 とくに高齢者を見つめた家電にも力を入れているとのことで、 重さ2.0kgの超軽量掃除機(右)や、さらに軽い750gのハンディスティック掃除機も見せていただきました。

 暗い道で安全・安心を高めるネックライト(右)は、子どもだけではなく大人にも「あったらいいな」と思うライトです。

 先進技術についても触れられ、空港での顔認証ゲートを始め、人の身体や心の状態をセンシングする様々なテクノロジー、ロボットも上記に記したIAUDアワード受賞の「歩行トレーニングロボット」や、重い荷物を持って見える位置でついてきてくれる運び屋さん「ポーターロボット」など。
 最後に、目指す社会は、「誰もが社会参加できることで、いきいきと暮らせる社会、コミュニケーションを誘発して人と人との繋がりが生まれる社会」と明言。「UDとは人や社会を想いやる創造力」の言葉で締めくくりました。

2016.10.8

vol.8

 

JFW-IFF
ヒッププロテクターで楽しくお散歩


 今期JFW-IFFに出展した株式会社アイエムユーは、新シニアブランド「遊子」(昨日の記事参照)と同時に、ヒッププロテクター・ブランド「サンポーチ (SUN-POCHE)」も発表しています。

 

 ヒッププロテクターは一般に転倒したときに、文字通りヒップを守るプロテクターです。とはいえこのサンポーチはヒップ=腰というよりは、腰の骨を守ります。骨に加わる衝撃を吸収するパッドが取り付けられるようになっていて、しかもファッション性も配慮されています。福祉衣料でもありませんし、これまで見たことのないようなブランド、と思いました。

 

 高齢者にとって昨今大きな問題となっているのが「大腿骨頸部骨折」です。骨折すると長期間歩行困難になり、外に出る気力や体力が衰えてしまうケースがよくあるといいます。しかしたとえ転んでも、少しでも衝撃を和らげてくれるものがあれば、安心して外出できます。同ブランドは、「楽しくお散歩したい」、そんな要望に応えて開発されたといいます。

 

   ヒッププロテクターは手のひら大の円形です。衝撃吸収性に優れ、軽くて、簡単に水洗いできる材料が使われています。

サンポーチのアイテムはすべてこのパッドが入るポケット付きです。下着のパンツからベルトタイプのもの、 またスカートやパンツ、さらにはアウタージャケットやロングベストまで、内側の腰骨の当たる部分にポケットが付いています。パッドは取り外し自在です。


 まさに「楽しくお散歩 サンポーチ」。骨粗鬆症などで散歩やジョギングが不安という方も、これをつければ活発に活動したくなってくるかもしれません。
 価格はベルトタイプで約1万円、アウターパンツで1万3千円くらいからとか。発売は「遊子」と同様、来年中とのことでした。

2016.10.7

vol.7

 

JFW-IFF
アイエムユーの新シニアブランド「遊子」

 

 ユニバーサルファッションを展開する株式会社アイエムユーが、先月26-28日、東京ビッグサイトで開催されたJFW-IFFインターナショナルファッションフェア(繊研新聞社主催)に出展し、75歳以上の女性向けファッションブランド「YUUSHI~遊子~」を発表しました。

この新ブランドの「遊子」は、旅人の意味です。旅でもしているようなイメージで、楽しい興味や変化を求める洗練されたマダムに向けて提案したといいます。コレクションは、そうしたシニアの女性たちに協力を依頼し、ボディから開発したとのこと。
 ブース前面に、75歳の女性の平均体型でつくったという工業用ボディを展示していました。これは現代のシニア女性が美しく見えるように進化させた、新バージョンのボディです。
 従来のボディではウエストが太め過ぎだったり、バスト位置が下がり過ぎていたり、背中の丸みが曲がり過ぎだったり----、難点がたくさんあったのを改良したといいます。
 スタッフたちが以前からあたためていた企画です。「とうとうできあがった!」と、私もうれしい気持ちになりました。

 

 スタイリングは小粋でエレガント、目に見えないディテール部分では、誰にでも着やすくて着心地のよい機能が採り入れられています。たとえば着脱しやすいように、コートやトップスは袖通しが楽にできる広めのアームホール、1.5cm以上の大きいボタンや斜めボタンホール、パンツは脚の内側にコンシールファスナー付き、ニットウエアは滑りをよくする工夫など。


 素材にもこだわり、春夏ものということで清涼感があってしかも上品、レースや刺繍など夢のある質感も程よく選ばれていました。「発売は?」と伺いましたら、来年中とのことでした。どのように展開されていくのか、楽しみです。

2016.10.5

vol.6

 

落合恵子さん講演会

「質問 老いることはいやですか?」

 

 先月末、カラート71プロジェクトで、「質問 老いることはいやですか?-作家 落合恵子さんと考えるファッションのこれから-」と題した講演会が開催されました。

 

 カラート71プロジェクトは、NPO法人ユニバーサルファッション協会、大学、研究機関の他、企業家、ジャーナリストなどファッション業界内外で活躍している方々を企画・運営委員に迎え、(株)ニューロビングループの支援を受けて発足したものです。


5回目となる今回のスピーカーは、作家でクレヨンハウス代表の落合恵子さん。71歳を迎え、この春、エッセイ集「質問 老いることはいやですか?」(朝日新聞出版)を出版され、またファッションブランド「Ms. crayonhouse(ミズ・クレヨンハウス)」もデビューさせました。「着たい服がなかった。でもオーダーなんて面倒、それに高価。それなら自分でつくるしかない。」と、初めて服をデザインしたのだそうです。
本講演では、同ブランドの黒いプルオーバーとロングスカートのコーデで登場。足元はスニーカーです。


 プルオーバーはボタンもファスナーもない、着脱しやすいかぶり型。裾のラインを大胆にななめにカットすることで、すっきりとたて長のラインが強調され、長い側には動きやすいようにスリットが入っています。パターンはミリ単位で考案し、何度も試着して着心地を確認したといいます。


 素材はアバンティとの協働によるテキサス・オーガニックコットン100%の伸縮性のある繊細なジャージーです。世界中にオーガニックコットン畑を広めたいと熱っぽく語られていたのが印象的でした。この詳細についてはクレヨンハウス発行の雑誌「いいね」をご覧ください、とのことです。


 さて本題の「質問 老いることはいやですか?」では、冒頭、メイ・サートン著「独り居の日記」の中の一節、「私から年齢を奪わないでください。働いて、ようやく手に入れたのですから」を紹介。またアメリカの女性人権活動家、デア・ロバックさんの言葉、「私のシワは、私の人生の成長の証です。---ツルンとした顔に戻りたいとは思いません」を引用し、「シワとシミとシラガは、女性が年を重ねることの表面的な変化に過ぎません。無理に若々しくあらねばならない、とは考えていないのです」と、エイジングを肯定されました。髪も敢えて染めない自然流の落合さん。本当に自然体な生き方をされている、と共感しました。

 

 この日はたまたま台風が襲来した悪天候でした。帰途を考え早めの終了となり、少し残念でしたけれど、またの機会を楽しみにしています。

2015.8.19

vol.5


「60歳からの起業の教科書」出版記念講演会


「一流社員じゃなかった。だから今がある。銀行も驚く急成長は、失敗だらけのサラリーマン人生があったから。」のキャッチコピーに惹かれます。これは「アイ・エム・ユー」代表取締役社長で、ユニバーサルファッション協会理事長の岡田たけ志氏の著書「60歳からの起業の教科書」(ATパブリケーション 1400円+税)にある帯言葉です。驕らない自然体なお人柄が表れています。

先月末、ユニバーサルファッション協会主催で、この本の出版記念講演会が、東京・台東デザイナーズビレッジで開催されました。


 講演では、まずガモコレ(巣鴨コレクション)の映像が紹介されました。この元気なおばあさんたちのファッションショーに、同社のブランド「大人の美モード」が協力しているのです。

 この後、同氏が64歳で起業するまでの軌跡が語られました。この中で興味深かったのが、「定年起業」を成功させるポイントです。


⑴資金力については、創業支援窓口へ相談することなどをアドバイス。
⑵プレゼンテーション能力は、「なぜ、なぜ、なぜ」で理論力をみがくこと。「こうなんです」と断言する、ぶれないことが大切といいます。
⑶数字力は、在職中からトレーニングしておくこと。
⑷ 女性活用では、女性中心の組織作りをすること。「女性に、とにかく任せる」、「叱らない、褒めない」のキーワードは、私も同じ女性として、「その通り」と実感します。
 この他、「パートナーを大事にすること」や、「起業には2番手が向いている」など、幅広い実体験からにじみ出たお話をされ、心が揺さぶられる思いでした。


 最後に触れられたのが、「社会貢献」です。ファッションは人を笑顔にし、人を輝かせると、ファッションの力を力説されました。同社は、毎年高齢者施設でファッションショーを行っています。このようなボランティア活動を通じて、人と人をつなぐ媒体となっていくと述べられました。
 これまで高齢者向けファッション商品というと、地味なデザインばかりでした。実は現在でも相変わらずそう思われているふしがあります。しかしファッションは常に美を追求するものです。この高齢者向けという先入観を打壊すために、同社では積極的に若手デザイナーを起用し、明るく若いセンスを採り入れているといいます。


 岡田氏は、「役職定年」を迎えられたとき、「自分にはやり残しがある」、それは「ユニバーサルファッション」の普及だ、との信念で、会社を起ち上げられたそうです。この「アイ・エム・ユー」は、わずか3年で年商20億を達成し、2018年には株式上場を目指しているとのこと。本当にすばらしいと、感銘いたしました。


 定年後をどう生きるか、そのヒントがいっぱいに詰まった講演会でした。


2015.8.7

vol.4

JFW-IFF

「大人のための美モード」 存在感光る

 

いつでも、どこでも、誰でもがファッションを楽しめる人のための美モード (Be Mode)」が、この22〜24日、東京ビッグサイトで開催されたJFW-IFFインターナショナル・ファッション・フェアに出展。ナチュラルライフスタイル・エリアで一際光る存在感を放っていました。
 ファッションは似合わないからダメと思っていた女性も、ここに来ると自分にも着こせそう、と思える服が並んでいたからでしょう。ブースでは足を止めて見る来場者への応対に、担当者が追われている様子でした。
 ビデオも人気で、同ブランドが協力するガモコレ(巣鴨コレクション)の映像を放映したことが効果的だったようです。ファッションを生き生きと楽しむシニア女性たちの姿を、興味深く見つめる人たちが数多く見られました。
 私も、偶然居合わせた知り合いに、これは誰が企画しているのかなどと問われ、このようなファッションイベントへの関心の高まりを改めて感じました。

 ブース展示は、手前正面にキャシー中島のカラフルな「マカナナキャシー Makana na Cathy」、左手後ろに、新ブランドのアンミカの「アネラリュクス ANELA LUX」、右手にヒロミヨシダの「デイトゥーデイ day to day」の新作コレクションを配して、マネキンを使ってショーイング。いずれもシルエットが美しくエレガントで、着やせして見えそうなものばかりです。
   あらゆる人が笑顔でいられるように、という同ブランドのユニバーサルファッションへの思いが、素直に伝わってくるステキな提案でした。

 

2014.8.18

なぜシニアUD?

vol.3

ユニバーサルファッションを提案する「大人のBEモード」

 ユニバーサルファッションを提案する「大人のBEモード」が、先般、JFW-IFFと同時開催されたFBSファッションビジネスソリューションフェアに初出展。

これは、テレビショッピングでユニバーサルファッション商品を展開するアイエムユーが取り扱うブランドコレクションで、吉田ヒロミによるデイ・トゥ・デイDAY TO DAYや、花井幸子監修のプロシューマーPROSUMER、仁科亜季子のニシナ・バイ・アキコNishina by Akikoなど、錚々たるブランドが勢揃いしていました。

 

  今回は、とくに「羽織る」に焦点を当て、カーディガンのコーディネイトを中心に、着やすく着心地のよいデザインを訴求。

また軽量かつストレッチ性のある素材や スイスの超長繊維綿使いによるシャリ感、高接触冷感が特長のアイスコットン製品など、ユニバーサルデザインの機能素材にこだわったアイテムが紹介されました。

 

 ユニバーサルファッションは、機能美だけではない、洗練された大人の女性のためのクオリティの高い商品であることを印象付けることに成功していたと思います。

 

 これに併せて、ユニバーサルファッション協会主催「ユニバーサルファッションフェスタ」(102122日 東京・六本木ハリウッドビューティー専門学校にて開催) の予告展示も行われ、バイヤーの関心を集めていました。