オンライン研究会


vol.5 UNIFAサステナブルトーク                                          2022.2.7

 

                                「交通安全×ファッション」

  ユニバーサルファッション協会(略称 UNIFA)で1月8日、オンライン研究会vol.5 UNIFAサステナブルトークを開催しました。

 スピーカーは相模女子大学 学芸学部 生活デザイン学科教授 角田 千枝先生です。UNIFA会員で、交通安全未来創造ラボ(日産自動車)特別研究員や(一社)日本高視認性安全服研究所(JAVISA)特別会員も務められています。文化服装学院を卒業後、パタンナーとして様々なアパレルブランドに携わってきた実務家で、お茶の水女子大学大学院で博士(生活工学)を取得。安心・安全な日常生活のための衣服設計をライフワークとし、反射材の衣装提案や、一般市民向けの防災服の開発を目指して研究中です。
 本トークでは「交通安全×ファッション」と題して、交通事故の現状や視認性の高い服装による効果を解説、ファッション視点で実施されている交通安全のためのワークショップの実例などを紹介しました。 参加者は18名(内UNIFA会員16名)でした。

 まず交通事故の現状と啓蒙活動の必要性から。
 色により見え方が違うことを実験で確認します。最も見えやすい色は黄色、次いで白、赤の順、最も見えにくい色は黒や灰色です。この事実が分かっている私たちですが、服の選択では、好みや着やすさを優先し、視認性の高さを第一条件として選ぶ人はほとんどいません。
 交通事故は減少傾向にありますが、目標とする24時間死者数2,000人に未だ達していないのです。死亡事故はその多くが衣服選択により回避できた可能性がある、と考えられているといいます。
 実際、歩行者の交通事故時間帯を調べると、薄暮時や夜間に多発していて、とくに突出しているのが、子どもの下校時間である夕方の16~18時とのことです。また歩行中の交通死亡事故は年齢別でみると75歳以上が多いそう。交通安全運動は全員が対象ですが、とりわけ子どもや高齢者、障がい者のような交通弱者には視認性を高める服装の配慮が重要といいます。
 それが高視認性安全服で、蛍光色(蛍光イエローやオレンジ)色に視認性を際立たせる反射材(再帰性)を使用した服です。夕暮れや夜目に光の効果で目立ちます。 
 EUやアメリカ、その他多くの国々では路上従事者に対し高視認性安全服の着用が義務付けられていますが、日本では義務化されていません。児童が着用する通学用ベストも、日本では安全規格を定めているところもありますが、普及しているとはいえないのが現状で、東京オリンピックで進むと考えていたそうですが、無観客となり警備に対する需要がなくなって、より難しくなっているといいます。
 歩行者の死亡事故は依然として多いにもかかわらず、視認性を重視して外出着の色を選ぶ人は多いとは言えず、ましてや反射材付きのファッションやアイテムを身に付けて外出する人は非常に少ない。だからこそ視認性の高い日常着の着用を促す啓蒙活動が必要と強調します。

 次に先生が取り組まれている啓蒙活動について。
 長年、継続して実施されているという反射材を使用したファッションショーや、反射材普及協会展示会での作品展示、ワークショップなどをプレゼンテーションしました。中でも印象に残ったのは、2019年のおもいやりライトの交通安全運動「TRY LIGHT LIVE 2020」で、角田先生が率いる相模女子大学と北里大学のeye clothesチームが、技術・演技・芸術点第一位を受賞されたことです。(私もこのニュースを見ました) 安全性を担保しながら独創的なクリエイティブを開発、実施したチームに贈られるもので、地域の社会貢献につながる活動として特筆されます。

 さらに今後の活動の課題について、次のように語られました。
 目立つ衣服は安全ですが、日常着として着用したいかというと 疑問で、着てみたくなるようなデザインを開発したいとのことです。例えばナイキのスポーツウェアやグッチの鮮やかなネオンカラーをアクセントにしたダイアナバッグ、とくに東京パラリンピック閉会式に登場した反射テープを採り入れたデザインには目が釘付けになったそうです。
 とはいえすべてを目立たせるというわけではないとも。黒い服も反射材付きですと色に関係なく目立って、外出時で安心ですし、室内なら問題ありません。要は、好みに合うようにどう取り入れていくか、リアルクローズとして落とし込めて活用してもらえるデザインを考える必要があるといいます。

 最後に日常生活で自然に採り入れられるデザイン提案と視認性を考慮したファッションをセレクトできる知識をつける啓蒙活動が大切、と述べて、締めくくりました。

 反射材など光る素材は、バッグや靴などアクセサリー的なアイテムにはよく使われていますが、服となるとスポーツウェア以外、ほとんどないのが実情です。アパレルにとってここは大きな狙い目ではないかと思いました。コートのようなアウターに細い反射テープが付いていたらより安全です。リメイクという手法もありますね。
  ファッションを楽しみながら、安心・安全に暮らすヒントをいただいたトークイベントとなりました。先生に改めて感謝です。          (柳原美紗子)

オンライン研究会


vol.4 UNIFAサステナブルトーク                                          2022.1.28

 

                             「サステナビリティ最前線 GOTSとSDGs」

  ユニバーサルファッション協会(略称 UNIFA)で12月9日、オンライン研究会vol.4 UNIFAサステナブルトークを開催しました。
  今回、登壇したのは特定非営利活動法人 日本オーガニックコットン協会(JOCA)元理事長で現在顧問、またGOTS, Global Organic Textile Standardオーガニックテキスタイル世界基準元委員でもあった森 和彦 氏です。「サステナビリティ最前線 GOTSとSDGs」をテーマに、サステナビリティ最前線にある、GOTS, Global Organic Textile Standard オーガニックテキスタイル世界基準認証とSDGsの関連性について解説、SDGs の観点からGOTSを深堀する興味深い内容でした。
  参加者は22名(内UNIFA会員13名)でした。

  お話しはまず世界繊維の概観から。2020年の繊維需要の構成比は、合繊が62%、内ポリエステルが52%、綿は24%しかありません。海洋のマイクロファイバーが問題とされ、綿へのシフトが起きているものの、綿はもう増産できない状況になっています。SDGsの12、作る責任・使う責任を意識し、捨てずに長く使うことで消費量を減らすことが重要といいます。
 世界の綿花事情で、興味津々なのは中国です。中国はインドに次ぐ綿花の一大生産国ですが、2021年の綿花輸入は260万トンで45%はアメリカからの輸入に頼っています。
 世界の綿花生産は需要が供給に追いつかず、高騰が続いています。こうした中、世界全体の20%を超えるシェアを持つ新疆綿(中国綿花生産の92%)をボイコットしたらどうなるか、森氏はこのことを考える必要があるといいます。

 次に世界のオーガニックコットン事情について。19/20綿花年度国別生産量推移のグラフによると、オーガニックコットンの生産は約25万トン、全体の約1%に到達したといいます。オーガニックコットンの生産はここ3年で急激に増えていて、最多はインド、次が中国の新疆綿となっています。
 オーガニックコットン、つまり有機栽培綿花は、その国の法定の有機農業基準で栽培され認証された綿花であると定義されており、オーガニックコットンだけの基準はないといいます。農薬や肥料の使用もその国の有機農業基準に従うことになります。ですから国によって基準が異なり、オーガニックコットンといっても化学肥料や農薬使用が認められているものもあるとのこと。GMO綿花を使っているものもあり、検査すると遺伝子組み換えが出てくる? こともあるそうです。
 なおオーガニックコットンは生産量が増加しているものの、入手困難が続いているとのこと。2020年10月にインドで2万トンもの不正認証(偽物)が発覚したこともあり、インド綿の供給が不安定化、シェアが落ちているといいます。一方で中国(新疆綿)、キルギスタン、トルコは伸びているそうです。

 ここから話題はサステナブル・コットン・イニシアティブ(SCI 持続可能な綿花の取り組み)へ移ります。
 森 氏はご自身が寄稿した日本繊維学会誌11月号掲載の次のような記事を紹介しました。「オーガニックコットンはケミカルに頼らず、遺伝子組み換え種子を使わない、人と環境にやさしく生物多様性に配慮したコットンですが、栽培に関しては地域や環境が限られるのが実情です。無理をしないでその土地に合ったサステナブルな農法でいくのがよいのではないか」と。そこにはテキスタイル・エクスチェンジ(Textile Exchange 略称TE) の CEOラリー・ペパー氏の言葉、『何が何でもオーガニックコットンにするのは、場合によってはサステナブルではない。オーガニックコットン栽培が無理な地域なら、その地域に適したサステナブルな方法を編み出すべき』が引用されています。

 このTE、テキスタイル・エクスチェンジとは、サステナブルな繊維産業を目指して制定された国際認証を行う非営利団体です。2017年にスタートした英国チャールズ皇太子の国際サステナブルユニットを引き継ぎ活動しているといいます。
 その取り組みが、2025サステナブル・コットン・チャレンジで、これは2025年までに世界の綿花生産の半分をサステナブルに転換し、その綿花を参加する企業が100%買い取るというプロジェクトです。 
 TEでは、オーガニックコットンを含む環境に好ましいコットンを「プリファードコットン(Preferred Cotton)」と呼んでいて、現在、約800万トン、世界綿花生産の30% を占めるまでに成長しているといいます。
 ここで特筆すべきはアメリカ綿のUSコットントラストプロトコルです。2020年にTEの推奨繊維・素材リストに加盟しました。これによりアメリカ綿全体がサステナブルになると、2025年までに世界の綿花生産の半分を「プリファードコットン」にするという目標達成が見えてきます。

 テキスタイルのオーガニック認証についても気になる指摘がありました。
 オーガニック認証には農業と工業の二つがあり、区別する必要があるそうです。農業の管轄は農水省で外国も同様、それぞれの国の有機農業基準で認証されます。工業の管轄官庁は経済産業省や消費者庁で、法定の有機基準はほぼ無く、任意のGOTSやOCS(オーガニック・コンテント・スタンダード)があるといいます。この農業と工業の境目は実綿の取引、つまり繰り綿、ジニングで、工業認証はそこから始まるとのことです。(これも覚えておきたい知識の一つですね。)

 最後にGOTS (Global Organic Textile Standard オーガニックテキスタイル世界基準認証)です。
 GOTS誕生の経緯は、下記のようです。
 初めてオーガニックコットンが栽培されるようになったのは1990年代初期のテキサスで、1993年にテキサス・オーガニックコットン販売農協が設立されます。その後基準・認証が乱立し、2002年にGOTSとオーガニック・エクスチェンジ(ORGANIC EXCHANGE)が立ち上がり、たくさんあった基準や認証がこの二つに収斂します。そしてこのとき基準策定機関(GOTS)と認証機関、認証機関の資格認定機関の役割が決まったといいます。すなわちGOTSは基準をつくりますが、認証はしない機関、オーガニック・エクスチェンジは認証機関となりました。オーガニック・エクスチェンジは2010年にテキスタイル・エクスチェンジ(TE)に改称します。
 GOTSは、テキスタイル基準策定機関である4つの団体が国際作業部会を構成している世界基準認証機関で、この4団体の一つが、日本オーガニックコットン協会(JOCA)です。トレーサビリティに加え、使用ケミカルの制限・禁止、動物実験禁止、残留物限界値、社会的責任(児童・強制労働、人権、差別、安全衛生、防火防災、組合、生活賃金)、環境(排水処理、水、エネルギー)、倫理的なビジネスの振る舞いなどの包括的基準を策定しているといいます。
 GOTSの基準は何度も改定されていて、最新版は2020年3月1日発効の第6版です。(森 氏はこの第6版を日本語に完訳されています。https://joca.gr.jp/wp/wp-content/uploads/2020/11/GOTS%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B36%E5%92%8C%E8%A8%B3_GOTS_Version_6.0_EN_JP.pdf クリックしてご覧ください。)
 森 氏によると、GOTS第6版は、以前のものと比較して社会的な判定基準、倫理的側面に重点が置かれているのが特徴といいます。
   また最近はGOTSの認証数が増加し、オーガニックコットンではない普通に栽培された繊維製品の工場の製品も、認証をとるようになっているとのことです。というのも社会的倫理責任をクリアしていることの証明として認証をとる施設が増えているからなのだそう。承認を受けたケミカルも増えていて、一般的な綿花に使われる染料や助剤でも認証をとる企業が多くなっているともいいます。
 なお日本のGOTS認証企業は現在、約30社あるとのことです。

 締めとしてGOTS基準の方向性、今後の展開が語られました。今後、GOTSはオーガニックというより、サステナブルな繊維製品の製造加工の世界基準として性格が大きく変わっていくのではないか、との見解が示され、印象的でした。(柳原美紗子)

オンライン研究会


IAUD × UNIFA オンラインセミナー                                         2021.12.29

 

                             「サステナブルなフェーズフリーデザイン」


 NPO 法人ユニバーサルファッション協会(UNIFA)は、国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD )と共催し10月21日、「サステナブルなフェーズフリーデザイン」をテーマにオンラインセミナーを開催しました。講師は一般社団法人フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行氏です。 参加者は23名(内UNIFA会員12名)でした。

 佐藤氏は学生時代「災害は繰り返す」という仮説を立てたといいます。防災活動は安心安全な社会をつくる活動ですが、このメインプレイヤーは行政サービスと余裕のあるボランティアの二つだけで、この重要な活動を限りあるリソースの中でやっていくことには限界があると指摘します。防災をビジネスとして参加できるものにしないと持続可能にはならないと考え、2014年にフェーズフリーを提唱、一般社団法人フェーズフリー協会を創設したと語ります。

  まずフェーズフリーとは? フェーズ(PHASE)+フリー(FREE)であり、次元をフリーにする、防災に関わる新しい考え方です。防災との違いは、防災が備えることを前提に安心安全な社会をつくるという考え方であるのに対し、フェーズフリーは備えられないことを前提に安心安全な社会をつくることといいます。防災とフェーズフリーはミッションが同じでも、アプローチの方法が異なっているのです。
 多くの人は防災をするべきと思いながら、備えることはなかなかできないのが実情です。なぜ備えることが難しいのでしょうか。この答を見出そうとする中で出てきたのが、フェーズフリーという考え方だったといいます。

  要は備えることが難しいのであれば、備えるのを止める、その代わり普段着ている服やボールペン、車などが日常の生活に便利に使えて、生活を豊かにし、それが災害時にも使えるコンセプトでつくられているものであれば解決できるのではないか。日常時に私たちの生活に役立ち、非常時にも役立つ、両方に使えるものこそ必要とされている、そう考えた結果、佐藤氏はフェーズフリーの概念にたどり着き、行動を起こされました。

 とはいえ日常時に非常時を想像することは難しく、そこには分厚く高い想像の壁があるといいます。今までの防災は、防災訓練のように想像の壁を取り払い備えることですが、フェーズフリーは、日常使っているものが想像の壁を乗り越えて、便利と思って使っていたら、それが災害時にも役立つようになっていたというものです。フェーズフリーデザインの基本的考え方はそこにあると下図を用いて説明しました。

  通常の商品・サービスは日常時のQOLに対し適切に提案していますが、非常時にはその価値が下がってしまいます。防災商品・サービスは、日常時には価値が発現していなくてむしろコストになり、非常時になったときだけQOLを上げます。しかしフェーズフリー商品・サービスは、日常時のQOL向上の提案が非常時のQOLの維持につながる連続的な価値提案になっているのです。
 その例としてトヨタのプリウスを挙げました。プリウスがクラウンより人気なのは、プリウスがエコで燃費のよい車であると同時に、停電時でも一般家庭に4日間分の電力供給ができるからです。また脱出ハンマーにもなるUSBカーチャージャーは、水害時、水圧でドアや窓が開かない状態になっても特殊ハンマーを使い逃げることができます。紙コップも災害時に計量カップになる目盛りが印刷してあればミルクなどを調合でき、その方が売れます。つまりフェーズフリーデザインにした方がビジネスになるのです。
 佐藤氏はこのビジネスにすることが重要と強調します。冒頭で述べられたように、防災は税金やボランティアでは持続可能なサステナブルなものにはなりません。ビジネスとしてフェーズフリーの持続可能な価値を提供し、それにより利益を得て新しい価値を提案する循環の仕組みをつくることが大切なのです。
 
 フェーズフリーに関しては今や学会から行政へ、そして民間の取り組みへと拡大しているといいます。災害時にしか役立たないものはサステナブルではないと断言しました。

 次にフェーズフリーをデザインする上で、基本となる下記5原則について解説しました。(ユニバーサルデザインの7原則に通じるところがあります。)
1. 常活性 どのような状況でも利用できる
2. 日常性 日常から使え、日常の感性に合っていること
3. 直感性 使い方、使用限界、利用限界がわかりやすいこと
4. 触発性 気づき、意識、災害に対するイメージを生むこと
5. 普及性 参加でき広めたりできること

 加えてフェーズフリーデザインの観点からWhy、Who、Where、Whenを意識してデザインすることが有効であるとも。
 Whyは、災害の種類が多いことから、各災害に対応するデザインを考えることです。
 Whoは、災害時健常者が健常者でいられる可能性が少ないことから、もっともユニバーサルファッションとの関連が深い視点であり、様々な人に対応できることもフェーズフリーの重要な課題です。
 WHEREは使う場所、屋内、屋外、郊外・都内、田舎、川のそば、山の中、いろいろな場所でつかえること。
 Whenはタイミングで、非常時の避難所生活、脱出や救助のしやすさ、インフラが途絶えたときに生き残るためのファッションなど、日常時とのバランスをとって提案できることが重視されるといいます。

 最後に「私たちを取り巻くすべてのものがフェーズフリーにならないと、繰り返す災害の問題を解決することはできない。これをきっかけにフェーズフリーデザインを考えて欲しい」の言葉で、締めくくりました。         (柳原美紗子)

オンライン研究会


vol.3 UNIFAサステナブルトーク                                             2021.8.19

 

                                  「ファッションと労働」

  ユニバーサルファッション協会(略称 UNIFA)で7月22日、オンライン研究会vol.3UNIFAサステナブルトークを開催しました。初回に続き、登壇したのはユニバーサルファッション協会理事でMASATO YAMAGUCHI DESIGN OFFICE 代表 / デザイナーの山口大人氏です。

 このところ新疆ウイグル自治区の綿花栽培の人権問題のニュースが世界を駆け巡るなど、ファッション産業は環境問題だけではなく、労働問題も抱えています。今回は「ファッションと労働」をテーマに持続可能なファッションを考えるトークとなりました。参加者は22名(内UNIFA会員13名)でした。

 お話しは、まず国連のILO(国際労働機関)の活動から始まりました。
 ファッション業界で労働問題が浮上したのは1997年だったといいます。「ナイキ」で児童労働などの労働問題が発覚し、不買運動に発展します。売上減、コスト増、機関投資家からの投資減退を招きました。
 これを契機に1997年にILOの「人権及び労働者の権利プログラム」がスタートし、H&Mなどファッション企業もこの問題に取り組むようになります。
 ILO加盟国は現在、187か国です。しかし一国あたりの条約の平均批准数は44と低く、日本も同様に他の先進国に比べ低くなっています。長時間労働や児童労働は存在し続けていますし、日本には外国人技能実習生の問題もあります。 
 ILOのようなハードロー(法的拘束力がある)ではグローバルな労働環境を制御できないなど、限界があることから、ソフトロー(法的拘束力がない)が登場します。
 ソフトローとは現実の経済社会において国や企業が何らかの拘束感をもって従っている規範、たとえばガイドライン、紳士協定、宣言などのことです。国家だけでなく企業に働きかけることができます。
 こうして策定されたのが「国連のビジネスと人権に関する指導原則」というソフトローです。①人権を保護する国家の義務、②人権を尊重する企業の責任 ― 人権デューディリジェンス、③救済へのアクセスの3つの柱で構成されています。
 ソフトローは社会変革に有効で、次のソフトローを呼んでいくのです。
 
 次にファッション業界の労働事情が語られました。
 ファッション業界では、雇用者数は世界で6,000万人、その内川上で2,600万人が雇用されているとのことです。その34%がアジアの主要生産国で、例えばバングラデシュでは商品輸出の80%、カンボジアでは商品輸出の66%をファッション製品が占めているといいます。
 問題は賃金です。インドやフィリピンなどの国では労働者の50%が最低賃金を支払われていないのです。
 ここでキーワードとなってくるのが、生活賃金です。これは労働者とその家族が適切な生活水準を提供するために労働者が受ける十分な報酬のことです。多くのアジア諸国では最低賃金を生活賃金とみなすことができるのは2分の1程度に過ぎず、最低賃金は生活賃金の半分以下だそうです。
 この問題の改善に取り組む団体に「Tailored Wages2019」があるとのことですが、未だ道半ばといった状態のようです。
 
 この低い労働賃金でつくられるファッションアイテムが、日本に大量に輸入されているのは周知の通りでしょう。山口氏は、この事実が結果として、日本の繊維産業の疲弊する要因になっていると、次のように分析します。
 行き過ぎた価格競争により国内の労働環境が悪化し、倒産や廃業へ追い込まれる企業が増加。外国人技能実習生問題といった労働問題を抱え、デフレにより数で補おうとすることで、その分資源も使うので、環境への影響も出ていると。

 さらに国内繊維産業の概況を資料を基に解説します。
 国内生産の減少により国内の繊維事業所数、製造品出荷額ともに1991年比約4分の1に減少。国内アパレル市場における輸入浸透率は、2018年97.7%まで増加。国内アパレルの市場規模は、バブル期の約15兆円から10兆円に減少する一方、供給量は20億点から40億点へ倍増し、衣料品の購入単価及び輸入単価は1991年を基準に6割前後の水準に下落しています。
 山口氏はアパレル企業と縫製工場の相対地位関係が共存共栄のサプライチェーンの関係をなしていない、適正化工賃を運用し、「共存共栄」を目指すシステムを確立することが必要と指摘します。
 国内の繊維産業の復興の鍵は、労働問題、とりわけ生活賃金の確保にあり、労働問題は廃棄問題にもつながる大問題であることが分かりました。

 「Tailored Wages2019」のクリーンクローズキャンペーンによる、サプライチェーンの生活賃金調査結果も興味深かったです。調査した20社で、生活賃金を100%支払っている企業はゼロ、50%支払っている企業もゼロ、25%支払っている企業はグッチで、それもイタリアの一部が支払っていたそうです。残りの19社は生活賃金を支払っていなかったとは、驚きでした。
 
 最後に今回のトークを下記のようにまとめていただきましたのでご紹介します。
 「ILO(ハードロー)だけではグローバル化に対応できなくなり、国連のビジネスと人権に関する指導原則(ソフトロー)をつくったことにより、拡散が始まりました。ソフトローがソフトローを呼んで、今社会変革が起ころうとしています。先は長いですが、生活賃金をしっかりと確保することにより、国内産業も守っていく道を探りたい。様々な団体が出来ていて、これをどうガバナンスしていくか、が今後のキーワードになっていくと思います。」
 
 今回も精力的に熱弁をふるわれた山口氏、その豊富な知識に頭が下がりました。参加者一同、改めて複雑な労働問題に関する考察を深めたことと思います。大きな拍手!を贈ります。                                                               (柳原美紗子)

オンライン研究会


vol.2 UNIFAサステナブルトーク                                             2021.6.13

 

                                  「ファッションと気候変動」

  ユニバーサルファッション協会は5月29日、オンライン研究会vol.2 UNIFAサステナブルトークを開催しました。初回に続き、登壇したのはユニバーサルファッション協会理事でMASATO YAMAGUCHI DESIGN OFFICE 代表 / デザイナーの山口大人氏です。

 今回は、「ファッションと気候変動」をテーマに、世界が激変する中、ファッション産業はどのように気候変動と向き合っていくのか、ユニバーサルデザインの視点を入れながら、いつものように切れのよい語り口で分かりやすく語られました。参加者は23名(内UNIFA会員14名)でした。
 
 
 まず気候変動について。「気候危機」と表現すべきで、要因は人間活動にあり、GHG(グリーンハウスガス=温室効果ガス)を排出しているのは大半が先進国、割り食うのは途上国であり、ここからしてユニバーサルデザインになっていないと指摘しました。
 世界の平均気温上昇は2015年パリ協定で、産業革命前と比較して、1.5度に抑える努力が求められているとのことです。このままいくと2030~2052年の間に1.5度に到達する可能性が高く、1.5度を超えると、固有性の高い生態系及び人間システム(サンゴ礁や先住民)や極端な気象現象(集中豪雨、干ばつなど)、特定の集団、例えばアフリカなど途上国に偏って影響を及ぼすリスク、生物多様性の損失、南極の氷が溶けるなど大規模な特異現象が懸念されるといいます。

 次にファッション産業の対策について。Global Fashion Agenda(コペンハーゲンでの世界最大のサステナブルファッション)とMckinsey&Company(マッキンゼー)が共同発表した「ファッション・オン・クライメイト(Fashion on Climate)」のレポートから、解決案を提示。
 ①GHG 排出量の定量化 
 ②GHG排出量の削減の可能性(手段)
 ③排出削減と経済(コスト)
 ④プレイヤーの役割
 上記、4つの項目の内、特に②GHG排出量の削減の可能性(手段)を取り上げて解説しました。
 2018年、ファッション産業のGHG排出量は約21億トンで世界全体の4%という数字を示し、このままいくと2030年には約27億トンに達するとのことです。減らさなければいけないはずなのに逆に増えてしまうのです。
 平均気温の上昇を1.5度にするためには半分の11億トンに削減する必要があるといいます。このために求められるのが、①上流事業からの排出量削減:61%、②ブランド事業からの排出量削減:18%、③持続可能な消費者行動の推奨:21%です。これができれば、約17億トンを削減できるポテンシャルがあると強調しました。
 
 それではどのように削減するか、その方策を<上流事業>、<ブランド事業>、<消費者>別に詳述、取り組みの具体例も紹介しました。
 ここでは以下に、その項目を挙げておきます。
<上流事業>
 ①機械と技術革新によるポリエステル生産の効率化
 ②綿花栽培での肥料と農薬の使用量の削減(70%)
 ③機械と技術革新による紡績、織り、編みの効率化
 ④ウエット(湿式)からドライ(乾式)プロセスへの移行 
 ⑤100%再生エネルギーへの移行
 ⑥生産と製造の無駄を最小限に抑える
 ⑦暖房など空調関連のエネルギー効率化
 ⑧ミシンの効率向上

<ブランド事業>
 ①リサイクル繊維、オーガニック繊維、バイオベース繊維の採用
 ②海上輸送の比率向上(海上83%:航空17%→海上90%:航空10%)
 ③デジタル化によりサプライチェーンの効率化やニアショアリング(地産地消に近い考え方)
 ④リサイクルパッケージの採用、パッケージの軽量化
 ⑤店舗設備の空調の効率化、LED照明への切り替え、再生エネルギー100%への移行
 (LEDへの切り替えでエネルギー80%向上)
 ⑥Eコマースの返品率削減(返品率35%→15%)
 ⑦過剰生産の削減(衣服の40%が値下げで販売されている)

<消費者>
 ①ファッションレンタル、リコマース、リペアなどの循環型ビジネスモデルへの移行
 (2030年までに5着に1着は循環型のチョイスが必要)
 ②洗濯と乾燥の削減
 (6回に1回は洗濯をスキップ、30度未満での洗濯、乾燥機の利用を抑える)
 ③回収とリサイクル(クロースドループ リサイクル モデルへの移行)

 最後にファッション産業の対策のまとめとして:
・1.5度未満に抑えるには2030年までに排出量を約半分へ
・上流事業、ブランド、消費者、それぞれのセクターで対応が必要
・多様的に企業間、産業間を越えた連携で排出量を抑える必要がある
 これには “ガバナンス” が鍵になると述べられ、締めくくりました。
 
 ファッション産業が抱える大変複雑で難解な環境問題の要点を整理し、ソリューションにまで踏み込み解き明かしていただきました。すばらしい講演に拍手! 次回も楽しみにしています。                    (柳原美紗子)

vol.1 UNIFAサステナブルトーク                2021.5.9

    
    「サステナブルなファッションから見るユニバーサルデザイン」

 2月27日、ユニバーサルファッション協会初のオンライン研究会、vol.1 UNIFAサステナブルトークを開催しました。スピーカーはユニバーサルファッション協会理事でMASATO YAMAGUCHI DESIGN OFFICE 代表 / デザイナーの山口大人氏で、テーマは「サステナブルなファッションから見るユニバーサルデザイン」です。


 「サステナビリティ」はファッションの未来を拓くキーワードと言われています。直訳すると「持続可能性」で、SDGs(持続可能な開発目標)の世界を目指す動きの総称です。「誰一人取り残さない」というSDGsの原則は、UD (ユニバーサルデザイン)の基本理念である包括性(inclusivity)と合致しています。UDとSDGsは連動しているのです。 
 ユニバーサルファッションは、UDのファッションであり、サステナブルなファッションと呼んでも過言ではないと思います。そこで今回は世界的なサステナブルファッションの潮流から見たユニバーサルデザインを語っていただき、改めてユニバーサルファッションの本質とは何かを考えてみました。参加者は17名(内UNIFA会員10名)でした。

 冒頭、山口氏はサステナビリティを概説、その上で世界のサステナブルファッションの潮流を次の2つのキーワードで解説されました。
 一つは「アソシエーション」です。大きく3つの組織、2019年フランスG7サミットの際、誓約された「FASHION PACT(ファッション協定)」、アメリカ母体のNGO「Textile Exchange」、労働者の生活賃金を達成する「ACT (Action, Collaboration, Transformation)」を紹介。
 もう一つは「法による規制」です。たとえば2020年にフランスで在庫や売れ残り品の廃棄禁止法案が成立し施行されたことや、2022-23年、EUが廃棄繊維製品の分別回収規制を導入、適宜リサイクルや加工を進める予定であることなど。
 欧州ではとくにこの二つ、「アソシエーション」で企業間、産業間を超えた連携で課題解決に取り組み、さらに「法による規制」で連携の重要性が増しているといいます。しかもその一方で、様々な分野の人々が連携し問題を解決していくことでイノベーションが生まれ、新しいビジネスが出現しているとも言及しました。
 次に本題のユニバーサルデザイン(UD)についての考察です。UDもサステナブルファッションのように、「アソシエーション」と「法による規制」で推進されるのではないかと持論を展開しました。
 障がいと一口に言っても、医学モデルと社会モデルがあり、後者の社会モデルはその多くが社会環境によって作り出されるものです。UDを推し進めるには、社会との関係性が何よりも重要であり、「アソシエーション」と「法による規制」で社会をUDにする、それがひいては持続可能な社会をつくることになるとの考えに、私も共感させられました。
 
 ディスカッションではこの難題に参加者から様々な意見が出され、時間切れとなりました。
 次回に期待です。                       (柳原美紗子)