オンライン研究会


vol.3 UNIFAサステナブルトーク                                             2021.8.19

 

                                  「ファッションと労働」

  ユニバーサルファッション協会(略称 UNIFA)で7月22日、オンライン研究会vol.3UNIFAサステナブルトークを開催しました。初回に続き、登壇したのはユニバーサルファッション協会理事でMASATO YAMAGUCHI DESIGN OFFICE 代表 / デザイナーの山口大人氏です。

 このところ新疆ウイグル自治区の綿花栽培の人権問題のニュースが世界を駆け巡るなど、ファッション産業は環境問題だけではなく、労働問題も抱えています。今回は「ファッションと労働」をテーマに持続可能なファッションを考えるトークとなりました。参加者は22名(内UNIFA会員13名)でした。

 お話しは、まず国連のILO(国際労働機関)の活動から始まりました。
 ファッション業界で労働問題が浮上したのは1997年だったといいます。「ナイキ」で児童労働などの労働問題が発覚し、不買運動に発展します。売上減、コスト増、機関投資家からの投資減退を招きました。
 これを契機に1997年にILOの「人権及び労働者の権利プログラム」がスタートし、H&Mなどファッション企業もこの問題に取り組むようになります。
 ILO加盟国は現在、187か国です。しかし一国あたりの条約の平均批准数は44と低く、日本も同様に他の先進国に比べ低くなっています。長時間労働や児童労働は存在し続けていますし、日本には外国人技能実習生の問題もあります。 
 ILOのようなハードロー(法的拘束力がある)ではグローバルな労働環境を制御できないなど、限界があることから、ソフトロー(法的拘束力がない)が登場します。
 ソフトローとは現実の経済社会において国や企業が何らかの拘束感をもって従っている規範、たとえばガイドライン、紳士協定、宣言などのことです。国家だけでなく企業に働きかけることができます。
 こうして策定されたのが「国連のビジネスと人権に関する指導原則」というソフトローです。①人権を保護する国家の義務、②人権を尊重する企業の責任 ― 人権デューディリジェンス、③救済へのアクセスの3つの柱で構成されています。
 ソフトローは社会変革に有効で、次のソフトローを呼んでいくのです。
 
 次にファッション業界の労働事情が語られました。
 ファッション業界では、雇用者数は世界で6,000万人、その内川上で2,600万人が雇用されているとのことです。その34%がアジアの主要生産国で、例えばバングラデシュでは商品輸出の80%、カンボジアでは商品輸出の66%をファッション製品が占めているといいます。
 問題は賃金です。インドやフィリピンなどの国では労働者の50%が最低賃金を支払われていないのです。
 ここでキーワードとなってくるのが、生活賃金です。これは労働者とその家族が適切な生活水準を提供するために労働者が受ける十分な報酬のことです。多くのアジア諸国では最低賃金を生活賃金とみなすことができるのは2分の1程度に過ぎず、最低賃金は生活賃金の半分以下だそうです。
 この問題の改善に取り組む団体に「Tailored Wages2019」があるとのことですが、未だ道半ばといった状態のようです。
 
 この低い労働賃金でつくられるファッションアイテムが、日本に大量に輸入されているのは周知の通りでしょう。山口氏は、この事実が結果として、日本の繊維産業の疲弊する要因になっていると、次のように分析します。
 行き過ぎた価格競争により国内の労働環境が悪化し、倒産や廃業へ追い込まれる企業が増加。外国人技能実習生問題といった労働問題を抱え、デフレにより数で補おうとすることで、その分資源も使うので、環境への影響も出ていると。

 さらに国内繊維産業の概況を資料を基に解説します。
 国内生産の減少により国内の繊維事業所数、製造品出荷額ともに1991年比約4分の1に減少。国内アパレル市場における輸入浸透率は、2018年97.7%まで増加。国内アパレルの市場規模は、バブル期の約15兆円から10兆円に減少する一方、供給量は20億点から40億点へ倍増し、衣料品の購入単価及び輸入単価は1991年を基準に6割前後の水準に下落しています。
 山口氏はアパレル企業と縫製工場の相対地位関係が共存共栄のサプライチェーンの関係をなしていない、適正化工賃を運用し、「共存共栄」を目指すシステムを確立することが必要と指摘します。
 国内の繊維産業の復興の鍵は、労働問題、とりわけ生活賃金の確保にあり、労働問題は廃棄問題にもつながる大問題であることが分かりました。

 「Tailored Wages2019」のクリーンクローズキャンペーンによる、サプライチェーンの生活賃金調査結果も興味深かったです。調査した20社で、生活賃金を100%支払っている企業はゼロ、50%支払っている企業もゼロ、25%支払っている企業はグッチで、それもイタリアの一部が支払っていたそうです。残りの19社は生活賃金を支払っていなかったとは、驚きでした。
 
 最後に今回のトークを下記のようにまとめていただきましたのでご紹介します。
 「ILO(ハードロー)だけではグローバル化に対応できなくなり、国連のビジネスと人権に関する指導原則(ソフトロー)をつくったことにより、拡散が始まりました。ソフトローがソフトローを呼んで、今社会変革が起ころうとしています。先は長いですが、生活賃金をしっかりと確保することにより、国内産業も守っていく道を探りたい。様々な団体が出来ていて、これをどうガバナンスしていくか、が今後のキーワードになっていくと思います。」
 
 今回も精力的に熱弁をふるわれた山口氏、その豊富な知識に頭が下がりました。参加者一同、改めて複雑な労働問題に関する考察を深めたことと思います。大きな拍手!を贈ります。                                                               (柳原美紗子)

オンライン研究会


vol.2 UNIFAサステナブルトーク                                             2021.6.13

 

                                  「ファッションと気候変動」

  ユニバーサルファッション協会は5月29日、オンライン研究会vol.2 UNIFAサステナブルトークを開催しました。初回に続き、登壇したのはユニバーサルファッション協会理事でMASATO YAMAGUCHI DESIGN OFFICE 代表 / デザイナーの山口大人氏です。

 今回は、「ファッションと気候変動」をテーマに、世界が激変する中、ファッション産業はどのように気候変動と向き合っていくのか、ユニバーサルデザインの視点を入れながら、いつものように切れのよい語り口で分かりやすく語られました。参加者は23名(内UNIFA会員14名)でした。
 
 
 まず気候変動について。「気候危機」と表現すべきで、要因は人間活動にあり、GHG(グリーンハウスガス=温室効果ガス)を排出しているのは大半が先進国、割り食うのは途上国であり、ここからしてユニバーサルデザインになっていないと指摘しました。
 世界の平均気温上昇は2015年パリ協定で、産業革命前と比較して、1.5度に抑える努力が求められているとのことです。このままいくと2030~2052年の間に1.5度に到達する可能性が高く、1.5度を超えると、固有性の高い生態系及び人間システム(サンゴ礁や先住民)や極端な気象現象(集中豪雨、干ばつなど)、特定の集団、例えばアフリカなど途上国に偏って影響を及ぼすリスク、生物多様性の損失、南極の氷が溶けるなど大規模な特異現象が懸念されるといいます。

 次にファッション産業の対策について。Global Fashion Agenda(コペンハーゲンでの世界最大のサステナブルファッション)とMckinsey&Company(マッキンゼー)が共同発表した「ファッション・オン・クライメイト(Fashion on Climate)」のレポートから、解決案を提示。
 ①GHG 排出量の定量化 
 ②GHG排出量の削減の可能性(手段)
 ③排出削減と経済(コスト)
 ④プレイヤーの役割
 上記、4つの項目の内、特に②GHG排出量の削減の可能性(手段)を取り上げて解説しました。
 2018年、ファッション産業のGHG排出量は約21億トンで世界全体の4%という数字を示し、このままいくと2030年には約27億トンに達するとのことです。減らさなければいけないはずなのに逆に増えてしまうのです。
 平均気温の上昇を1.5度にするためには半分の11億トンに削減する必要があるといいます。このために求められるのが、①上流事業からの排出量削減:61%、②ブランド事業からの排出量削減:18%、③持続可能な消費者行動の推奨:21%です。これができれば、約17億トンを削減できるポテンシャルがあると強調しました。
 
 それではどのように削減するか、その方策を<上流事業>、<ブランド事業>、<消費者>別に詳述、取り組みの具体例も紹介しました。
 ここでは以下に、その項目を挙げておきます。
<上流事業>
 ①機械と技術革新によるポリエステル生産の効率化
 ②綿花栽培での肥料と農薬の使用量の削減(70%)
 ③機械と技術革新による紡績、織り、編みの効率化
 ④ウエット(湿式)からドライ(乾式)プロセスへの移行 
 ⑤100%再生エネルギーへの移行
 ⑥生産と製造の無駄を最小限に抑える
 ⑦暖房など空調関連のエネルギー効率化
 ⑧ミシンの効率向上

<ブランド事業>
 ①リサイクル繊維、オーガニック繊維、バイオベース繊維の採用
 ②海上輸送の比率向上(海上83%:航空17%→海上90%:航空10%)
 ③デジタル化によりサプライチェーンの効率化やニアショアリング(地産地消に近い考え方)
 ④リサイクルパッケージの採用、パッケージの軽量化
 ⑤店舗設備の空調の効率化、LED照明への切り替え、再生エネルギー100%への移行
 (LEDへの切り替えでエネルギー80%向上)
 ⑥Eコマースの返品率削減(返品率35%→15%)
 ⑦過剰生産の削減(衣服の40%が値下げで販売されている)

<消費者>
 ①ファッションレンタル、リコマース、リペアなどの循環型ビジネスモデルへの移行
 (2030年までに5着に1着は循環型のチョイスが必要)
 ②洗濯と乾燥の削減
 (6回に1回は洗濯をスキップ、30度未満での洗濯、乾燥機の利用を抑える)
 ③回収とリサイクル(クロースドループ リサイクル モデルへの移行)

 最後にファッション産業の対策のまとめとして:
・1.5度未満に抑えるには2030年までに排出量を約半分へ
・上流事業、ブランド、消費者、それぞれのセクターで対応が必要
・多様的に企業間、産業間を越えた連携で排出量を抑える必要がある
 これには “ガバナンス” が鍵になると述べられ、締めくくりました。
 
 ファッション産業が抱える大変複雑で難解な環境問題の要点を整理し、ソリューションにまで踏み込み解き明かしていただきました。すばらしい講演に拍手! 次回も楽しみにしています。                    (柳原美紗子)

vol.1 UNIFAサステナブルトーク                2021.5.9

    
    「サステナブルなファッションから見るユニバーサルデザイン」

 2月27日、ユニバーサルファッション協会初のオンライン研究会、vol.1 UNIFAサステナブルトークを開催しました。スピーカーはユニバーサルファッション協会理事でMASATO YAMAGUCHI DESIGN OFFICE 代表 / デザイナーの山口大人氏で、テーマは「サステナブルなファッションから見るユニバーサルデザイン」です。


 「サステナビリティ」はファッションの未来を拓くキーワードと言われています。直訳すると「持続可能性」で、SDGs(持続可能な開発目標)の世界を目指す動きの総称です。「誰一人取り残さない」というSDGsの原則は、UD (ユニバーサルデザイン)の基本理念である包括性(inclusivity)と合致しています。UDとSDGsは連動しているのです。 
 ユニバーサルファッションは、UDのファッションであり、サステナブルなファッションと呼んでも過言ではないと思います。そこで今回は世界的なサステナブルファッションの潮流から見たユニバーサルデザインを語っていただき、改めてユニバーサルファッションの本質とは何かを考えてみました。参加者は17名(内UNIFA会員10名)でした。

 冒頭、山口氏はサステナビリティを概説、その上で世界のサステナブルファッションの潮流を次の2つのキーワードで解説されました。
 一つは「アソシエーション」です。大きく3つの組織、2019年フランスG7サミットの際、誓約された「FASHION PACT(ファッション協定)」、アメリカ母体のNGO「Textile Exchange」、労働者の生活賃金を達成する「ACT (Action, Collaboration, Transformation)」を紹介。
 もう一つは「法による規制」です。たとえば2020年にフランスで在庫や売れ残り品の廃棄禁止法案が成立し施行されたことや、2022-23年、EUが廃棄繊維製品の分別回収規制を導入、適宜リサイクルや加工を進める予定であることなど。
 欧州ではとくにこの二つ、「アソシエーション」で企業間、産業間を超えた連携で課題解決に取り組み、さらに「法による規制」で連携の重要性が増しているといいます。しかもその一方で、様々な分野の人々が連携し問題を解決していくことでイノベーションが生まれ、新しいビジネスが出現しているとも言及しました。
 次に本題のユニバーサルデザイン(UD)についての考察です。UDもサステナブルファッションのように、「アソシエーション」と「法による規制」で推進されるのではないかと持論を展開しました。
 障がいと一口に言っても、医学モデルと社会モデルがあり、後者の社会モデルはその多くが社会環境によって作り出されるものです。UDを推し進めるには、社会との関係性が何よりも重要であり、「アソシエーション」と「法による規制」で社会をUDにする、それがひいては持続可能な社会をつくることになるとの考えに、私も共感させられました。
 
 ディスカッションではこの難題に参加者から様々な意見が出され、時間切れとなりました。
 次回に期待です。                       (柳原美紗子)